麻酔の必要なお年頃




肩を触られた気がして後ろを振り返ったが誰の姿も部屋にはない。イルミさんと知り会ってからこんなことが頻繁に起こっている。あんな風に他人に近寄られるのは慣れていない、そのせいだ。それに、彼は人が持っているであろう気配が極端に薄いくせに凄まじいオーラを放つ。はたしてそれが彼の念能力が放っているものなのか凄腕暗殺者という生業からくるものなのか、私には計り知れない。

「厄介だなあ」

まだらに血の付いた手術着を風呂場の水に浸け、出かける支度を続けた。ゴーグルやマスク、帽子がなくなる瞬間、私の肩から力が抜ける。髪をブローしながら鏡を覗く時間が好きだ。ただいま自分、と口には出さずに語りかけて前髪をブラシでとかすと赤い口紅をひいた。


つぎ