曖昧に騙されるお年頃
目覚めればそこは見知らぬ天井、という展開はなかった。枕元の時計は朝を知らせていて隣にイルミさんの姿はない。私が大の字にシーツを陣取っているだけ。先に起きて帰ったのだろうか、置き手紙も何もなかった。
キスぐらいはさせてもらおうかな。昨夜、気を失う前の発言を思い出してとっさに起き上がり唇を拭った。力が強すぎて口角がぴりりと切れる。
「早く死ね」
着替えながらイルミさんに対する呪詛を吐いてやる。仕事で些細なヘマをして報復にあえばいい。
「でもそれってもしかしたら」
イルミさんの遺体を私が解体する、なんて機会がいつ訪れてもおかしくはない可能性があるってことなのか。運ばれてくるのは大半が何らかの理由で組織に殺されたいわくつきの者たち。そんな愚鈍な奴らと同じような形でイルミさんがやってきたらを、想像する。名ばかりの暗殺者だと幻滅するだろうか、それさえも感じることなく終わるだろうか。どちらにせよ私には関係のない人物なのだ。この想像に意味なし。
「あれ」
ズボンを履こうと屈むと視界に赤がちらついた。太腿の付け根、下着からじわり滲むよう、わずかに流れる血を捉える。生理だ、予定日はまだだというのに突然やってくるなんて、これは彼によって崩されてしまった精神バランスが変調をきたした結果に違いない。
「イルミ、死ね」