ビートを刻みたいお年頃
イルミさんの黒目が下を向いて、横に反れて、私を見た。
「何で玄関開けてるの。寒いよ?」
「帰ってください」
「それは出来ない」
「そんなわけないでしょう。ここ私の家なんだから」
腕を組んで考える素振りを見せているがおそらく考えているフリだろう。イルミさんの表情から考えを読むこと自体が無謀なこと。だからか、どうしても彼と対話する時は素の自分が出てきてしまう。ありのままでいかないと、いつの間にやら会話する術を見失ってしまうのだ。
「出来ないんだ」
「どうして?」
「確認しなきゃいけないことがあるから」
ピンクのビーズカーテンで仕切られた洗面所から水滴の落ちる音がして、この家には何のBGMもないことに気が付いた。そんな中でイルミさんの黒い眼に見つめられるのは少し、苦しい。
「いいよね、泊まって」
近いうち、テレビを買いに行こう。