空腹の夜道。視界も意識も朧気で足元がふらつく。夜の虫が俺を追い立てるように鳴いている。腹が減った、これじゃあ本当に死んでしまう消えてしまう。ここいらには太陽のように照りつける電飾や街灯が見当たらない。暗く、地続きに道が続いていて立ち並ぶ小汚い店も閉められている。

「もうだめだ」

行き当たった場所には、二人ほどしか通ることができない小さなゲートがあった。シャッターがわずかに開いている。とにかくどこかに身を落ち着けなければまずい。俺は身を捩らせてゲートをくぐった。

中は狭い道が少し続いているようだ。上はトタン屋根で仕切られ、さらに暗闇が押し込めている。両隣の建物の錆ついた壁に手をつき歩みを進めていくと足に何かぶつかった。花壇だ。見れば小さな縁側がある。張り出した板敷きが狭い道を余計に狭くしていた。

「ひと、か?」

縁側に寝転ぶ、人らしきもの。近付いてみる。

「…女だ」

短パンのジャージにタンクトップのシャツ。探し求めていた食料がまんまと転がっているじゃないか。しかも、好物の匂いまで。起こさないよう、そっと腰を下ろし、どこから食らいつこうか吟味する。頼りなさげな二の腕にしようか、じんわり汗が見える首にしようか、丸出しの太ももにしようか。

女が寝返りを打った。顔を見れば、まだあどけなさが残る若い女でますます食欲をそそられた。綺麗な女だ、それが消えてしまわない内に食べてしまおう。

「哀れ、食料として死ぬことを悔やむなよ」

太ももの一番皮の薄いところに爪を立てる。舌が触れた時、女が悶えたような気がした。これで俺の空腹は久しぶりに満たされる。インクも底を尽き夢子ともしばらく別れていた今、やってくる一時の幸福。

しかし、歯を突き立てようとした瞬間、鈍い衝撃が頭に走り、俺の意識は途絶えた。