「一人多い」

「俺がいるからな」

我が家の晩御飯に一人見慣れない男がいた。見慣れないとは言っても今朝方から換算すれば見慣れているに入るだろう。私の好物の肉じゃがに箸をのばす、疑惑の男。何の違和感もなく自分の家族と飯を囲んでいるという事実をすぐに受け入れるなんてことは私には出来ない。

「お母さん、これどういうこと。知らない男がここでご飯食べてるよ」

「知らない男じゃなくて北島さん」

「きたじまぁ?」

不気味な見た目に反して凡庸な名前だ。平然と白米を掻き込みながらテレビを見ていたお母さんに駆け寄って肩を揺する。

「何でこの人がうちの家でご飯食べてるのさ」

「今日からここに住むからよ」

予期せぬ事実が降りかかり愕然とする。あっけらかんと言う、お母さんは気でも違ったんじゃないかと、さらに肩を揺すったが頭を叩かれた。

「そんなの、じいちゃんが許さないでしょ!」

「そのじいさんが住まわせるって言ってんの」

そうだ、いつもテレビの隣で座布団二枚の上を陣取っている、じいちゃんの姿がないじゃないか。

「…じいちゃんは?」

「組合の集まりでしばらく帰らないんじゃない。あの人寄り道するし」

「まさか、お父さんも?」

「そのまさか。明日から私が店番するから休みの日はアンタも手伝うこと」

「ちょっとちょっと、だからって、この人うちに置くのは納得いかないし、おかしいよ。山から降りてきた変態なんだよ」

「変態じゃない。吸血鬼だ」

「ほら変態じゃん!」

「いいじゃない、本人がそう言ってるんだから。北島さん料理上手だし万事おっけいよ」

「おっけいなもんか!こんな家出てってやる」

納得なんていくわけがない。しかして私は夜のとばりに駆け出していったのだった。

「劇的だな」