私を抱締めている憎たらしい手が外せない。もがけばもがくほど絡みつく、ぎとついた感情が重くて仕方なかった。
「髪濡れてるけど風呂でも入った?」
「静雄君はどこ」
「それとも二人で入ったばっかりかな」
思い切り腕を殴って解放を求めても調子は変わらず、一層強くなってしまう抱擁は胸を空っぽにさせて気持ち悪くなる。
「シズちゃんの家なんて気味が悪い所、早く出て帰らない?」
「帰るのはアンタだけで十分」
「ねえ、何でそんなに怒ってるの」
力の入る腕に気を取られると臨也の痩せた頬が私の頭にすり寄ってきた。
「言っとくけどのだめさ、君が怒るのはおかしいってこと分かってる?」
やっと臨也の腕から解放され振り向いた時には、もう既に彼は玄関にいて今まで見たことのない表情をしていた。
「まさか君が本当にしずちゃんに惚れるとは思ってないよ。これっぽっちも。でもね、人にはどうしても嫌なことってあるんだよ」
「例えば?」
「自分で考えてみな。それが次会う時までの宿題」