起きて目を覚ませば視界に最初に入ってきたのは静雄でなく可愛らしい包装に包まれた小さな箱だった。嫌な想像が少しだけ浮かんだが中を開けてみればそれも消え、代わりに愛しい気持ちがじわりと広がっていくのが自分でもはっきり分かった。さっそく洗面所に向かって鏡の前でそれを試してみる。箱に同封されていたメモには、ごめんと一言、静雄の雑な字で書かれていた。

鏡に見える自分の顔は、お世辞にも嬉しいという感情にはほど遠いものがあって、せっかくの気持ちを台無しにしてしまったようでうんざりした。何に対して自分は嬉しい気持ちを感じているのか分からないでいるのが、よく表情に表れている。

「つけたのか」

鏡越しに静雄が帰ってきたのに気付き、驚いて振り返った。最初は申しわけなさそうに下げられていた眉も、私が贈り物を身に付けたのを見て優しげなものに変わっていく。静雄の指が戸惑いがちに身に付けられた自分の贈り物に触れた。

「似合ってて良かった、口紅」

「おかしくない?」

「おかしくねえよ」

唇に触れた指が紅を伸ばすようになぞられる。いま、私はとてつもなくキスをしたい衝動に駆られていた。綺麗に飾った唇の色が互いの舌や肌で消えてしまうくらいのキスを。きっと静雄もそう考えているはずだと、私は思いこみたい。