波江がコーヒーを煎れてからどれくらい経っただろう。仕事を終えれば早々に帰宅して毎度、過剰に弟を愛でにいく行為は愉快そのもの。

キーボードのEnterキーを押してからソファーになだれ込み、身を預ければ自動的に瞼も落ちた。最近このソファーからのだめの癖のようなものが消えた気がしてならない。自然と眉間に皺が寄るのが分かった。彼女に対する苛立ちや、怒りとも取れる感情のダマに哀傷めいたものがはらんでいるようだ。感情の排泄が難しい。俺のどうにも処理し難い感情を知ったらのだめは何と言うか。

れっきとした人間である彼女は、変化という過程をもって成長してくれても良いはずだ。それなのに彼女はちんたら亀のように変化がない。女は子宮で物事を考えると、どこかの変態作家が言っていたが、あながちそれは間違ってないしのだめの場合には大いに当てはまるだろう。

「何であんな女と?」

いつか波江がそう言っていた。何で俺が彼女を愛して、いや、好きになったのか。別段、綺麗なわけでもないし、変わった能力や特技があるわけでもない。ましてやとっておきの観察対象にもなりえるはずがない。ただ、漠然と好き、いや、愛してる。型にはまらないわけではない凡人だが、終わりの見えない膨大な定義の羅列をすり抜けていく、そんな女だ。

こうして悦に浸り、意味なく眠りこけている。実に滑稽。