「なぁ、のだめ」

いきなり静雄が背中にしなだれかかってきて、手元が大きくぶれる。足のマニキュアを塗り直している最中なのに、爪から少しはみ出てしまった。

「今日、何かあったか」

「何にもないけど、どうして?」

「理由は、ねえな」

「変なの」

作業は人差し指に差しかかる。ここが一番の集中のしどころなのだが、静雄が私に腕を回してきて、また爪からはみ出した。首に近付く息がくすぐったくて集中出来ない。

「静雄君、邪魔かなあ」

「そんなこと言うな」

「だって、さっきから静雄君のせいでマニキュアがはみ出しちゃってる」

「塗んなくていい、そんなもん」

静雄の力がどんどん強くなって少し苦しい。

「綺麗にするなよ。俺は別にそのままでいい」

「男の人の前で綺麗だったり、可愛くありたいって思うのは間違ってる?」

「だから、俺がそのままでいいって言ってるじゃねえか」

この強すぎる腕は多分、外されない。ため息を我慢してかわいてしまう前にマニキュアの蓋を閉じた。静雄に向き直ろうと思っても、抱きしめられているせいでそれが出来ない。

「何がしたいの?」

「お前が好きで仕方がねえんだよ」

僅かに彼の頭が動く。

「そっか」

キスをしようと思っても、出来ないから返事をした。