「やっほ、シズちゃん」

臨也がいるとなれば当然、俺は近くにある適当な物を蟲目掛け出せる力限界まで出してぶん投げる。確実に死ぬように、奴の存在が消えるように、のだめの視界に二度と奴が入ることのないように。

狂いなく一直線に飛んだはずの物は、蠅のように避けられ地面にめり込んでから、その役目を終えた。奴はそれに興味を示すでもなく、あたかも何事もなかったかのような顔をして喋り出す。また俺は適当な物を見つけて体勢を整えた。

「相手の話を聞く。人間として最低のことも出来ないとか笑えない」

「殺す殺す殺す殺す殺す」

「ていうか、君の愛してやまないのだめのことを話に来たんだけど」

「………」

「聞く気になった?あ、勘違いがあると困るから先に言わせてもらっちゃうけど、のだめはシズちゃんの彼女でも何でもないよ」

「あァ?」

「向こうも、そうだねえ…シズちゃんのこと、彼氏だとか思ってないよ」

「てめぇ、さっきからぺらぺらぺらと」

「俺の、彼女なの」

奴は空気に乗るように一回転すると、ベンチの上に飛び乗って話を続けた。その表情はいつも以上に読めない。読むなんてことの前にいつも殺しにかかるが。

「シズちゃんのじゃ、ないんだよ」

「どうだかな。あいつも、てめえのこと彼氏と思ってないんじゃねえか」

「さあね」

ずん、と鳩尾辺りに小さな衝撃が走った。小型ナイフが刺さることなく、ぶつかったらしい。乾いた音をたてて落ちたそれに一瞥食らわしてから奴へ視線を戻すと、もうベンチの上からは移動していた。

「いつもそっちばっかであれだけどさ、俺も思ってるよ?死ねってさ」

背後から聞こえた声を最後に奴は行方をくらました。