「もう帰る」

呑んで騒いでゲロ吐いて。こんな座敷たえらんねえ。出るぞ、俺はこんな店出てやるぞ。

「帰れ帰れ。そんで二度と帰ってくんな」

いつか銀八を殺害してやりたいと日々思ってる。大体俺を呑みに誘ったのはあいつだ。坂本が嫌なら誘うなよ俺だって坂本が嫌だよ。

Y駅西口の居酒屋を出て風にあたれば意外と自分が酔っていた事に気がついた。そして酔いが醒めた頃。

「お客さん、終点です」

俺の降りる駅は終点じゃない。

「あ、あの俺が降りたいのはO駅なんですけど」

「何言ってんの。お客さんが寝てるから悪いんでしょ。もう電車ないからね」

終点から二つ前にある俺が降りるはずだった駅まで、線路沿いに歩くことになった。なんでこういう日にブーツを履いちまったかなあ。何時間歩けば家に着くんだよ。少し、胸と胃の中間点がやばいような気配がする。

「やべえ」

しかしここで吐いたら負けだ。こんな誰が見てるかも分からない場所で吐くわけにはいかないんだよ。

見覚えのある通りに出た。ここを真っ直ぐに行けば家だ。我が家だ。

「う、お」

視界が一瞬ぐらついて、電信柱ぎりぎりの所で壁に手をつく。とは言っても反動で壁に思いっきり頭を打ちつけてしまった。痛い。動きたくない。そのまま壁にもたれかかりながら地面にずり落ちていく。もう立ち上がる気力もない。俺はこんなところで1日の終わりと始まりを迎えるのか。

「わっ」

悲観に暮れている真っ只中、女の声がした。視線を向ければ、何ともラフな格好で犬を連れた女が俺を凝視している。見てんなら助けろ。助けないなら帰れ、ぶっ殺すぞ。

「だ、大丈夫ですか?」

「……」

「すいません、生きてますか」

「…肩貸してもらえないっすか」

女の小さい肩を借りて、また帰路を進み始めた。犬がちょこまかと俺と女の先を歩いてる。雑巾みたいな犬だ。

「このアパートの階段を…」

「上がるんですね。ちょっと待ってください。犬、そこのポールに繋いできます」

俺を一生懸命、引っ張り上げる彼女はたくましかった。