「初恋って覚えてるか」
「初恋?」
「そうだよ。誰にでも皆、平等にあるもんだろ?」
「それがなんだって言うんですか」
「あまり思い出したくねえ記憶だが、浸るには何だか心地いいんだよな」
「私はあまり思い出したくないですね」
「ふられたか?」
金属製の箸から冷麺がするりと落下する。スープがはねて根岸の服に、わずかにかかっていた。
「結果なんざ関係ねえさ。初恋は最初が肝心なんだ」
「最初?」
俺は箸を置いて向かい側の根岸の隣へ移動した。
「うんざりすることがあろうが、初めて恋した時の気持ちが大事だろ?」
包んだ頬は異様に熱を持っている。俺の視線はいま、根岸の口元しか映せていない。
「丁度いま、俺はその気持ちを感じてる」
座敷の照明から逃げるように根岸を隠して閉じこめていく。触れた唇は頬と違って冷たかった。
「高杉変態!ここお店!」
派手に扉が開かれ闖入してきたのは銀八と坂本の二人。本当にこいつらを殺したいと思っている。