「ああ、気持ち悪ぃ」
「ワイン飲みすぎなんですよ」
「うるせえな」
彼女の肩を借りるのは何度目だろうか。定まらない視点は軸を外れて暗闇に消えた。
ほのかに香る香水に少しだけ頭が熱くなる。嫌々ながらも、ちょっとはめかし込んで根岸は俺に会いに来たのだ。満更でもないと、思われているはず。
揺れる終電、がらんどうの車内、隙間なく根岸に寄りかかる。酔っ払いの特権だ。あと、いくつ駅を過ぎたら家に着くだろう。
「高杉さん」
「あぁ?」
「携帯、返して、ください」
満更じゃないはずなのにな。ぐらりと顔を上に向けた。天井に常設してある扇風機は動いてない筈なのに俺から熱を遠ざけていく。
俺は返事をしたくなくて、俯いている根岸の肩に手を回してキスをした。前ほど抵抗をしないんだ、やはり彼女は満更でもないと、思ってるはず。