「カルボナーラにします…」
「俺はボロネーゼ」
Y駅についてから、そばにある地下街まで歩くこと五分。地下街のほとんどの店はシャッターが閉められているが一部、レストランがある通りはそれとなく賑わっていた。
「それで、えっと、あの」
「何すか」
「名前…」
「高杉、晋助」
「た、高杉さん。もうそろそろ携帯を返してもらってもいいんじゃないですか」
「飯が来るまで気長に待ちましょうや」
「嫌です」
根岸は力強くフォークを握って俺を睨んだ。その眼は明らかに怒りをはらんでいて、こんな時でも彼女は強気でたくましいと思った。
「いつも悪いと思って。礼の代わりに今日奢ります」
「えっ」
フォークを握る手がさらに強くなった。心底嫌そうな顔をしている。俺は冷やを流し込んで一言根岸に言った。
「こうでもしねえと根岸さん。来ないだろ?」
「まぁ…」
きっとフォークはもうすぐ曲がる。
まえ