「たかすぎい、ちょっと、」

「行かねえ」

「K駅の安いとこなんだけど、」

「坂本連れてけ」

「嫌だよぉ。あいつ俺と一緒に寝ゲロタイプだからさあ」

「死ね銀八」

気づけば俺はK駅の居酒屋にいた。おかしい。頬も熱いぞ。おかしい。

「帰る」

「えぇ〜高杉待てよう」

9時の帰宅がまた深夜になってしまった。何だかんだ言って毎回こうだ。ムカつく。ふらつく。ん、酔ってるのか。

「気分悪ぃ」

両手に顔を埋めて、思いっきり溜め息をつく。もう嫌だ。俺にだって安らぎが欲しい。安息日が欲しい。

めくるめく鈍い思考の中に人の気配がした。閑散とした道路にビニールの擦れる音がする。振り向けば、この間の女。たくましい、あの女。凄く眉間に皺がよっている。

「こ、こにょ間はどうも」

噛んでしまった。

「…別に気にしないでください」

「でも本当すいません。部屋まで引っ張ってもらって」

「いえいえ…」

この女、引いている。見るからに嫌そうな目つき。所在なさげな足元。いくら何でも俺だって分かる。ちょっと悲しいぜ、俺は。

「あ、あのぉ」

堪えてたものを吐き出すように突然、ちぐはぐな表情で女は喋りかけてきた。

「また、酔ってるんですか?」

「酔ってないっつ」

また噛んだ。

「その、ちゃんと帰れますか?」

女、俺が嫌なんじゃないのか。勘違いか。俺の勘違いか。こいつ凄ぇ良い奴じゃねえかよ。

「あぁ、はい」

「なら、良かったです」

トーン低めの「さよなら」が響いて、女はゆっくりと足を進めた。俺の横にさしかかった女の表情はぼんやりとしていて、あの時ほどの印象がなかった。あの時。あの時の、たくましい表情。もう一回あれが見たい。

俺は女の腕を掴んだ。いきなりのことに驚いたのか、女は目を大きく見開いて俺を見上げた。

「やっぱ無理みたいっす」

「え」



まえ