随分昔、まだ隊に入ったばかりの幼い頃、来島は高杉にどんな女性が好きか聞いたことがある。その質問にはほんの少し下心が混ざっていたけれど周到に隠して。少しの間をおいて返ってきた答えは髪の長い人、だけだった。来島は戦闘には邪魔だと思って短くしていた髪をそれから伸ばした。これでは気持ちが明白だと分かっていたけれど高杉のことを何一つ分からない来島に出来るのはこれしかなかった。

鎖骨より伸びたあたりで周りは気付き始めたけれど、当の本人は気付いてるのか気付いていないのか分からない程無反応だった。駒の一つにしか過ぎないと分かっているのに、女1人ということもあって愚かにも期待を捨てきれずにいる。夏は暑くてドライヤーで乾かすのもだるいな、もう切ってしまおうかな、なんて得を見出せずに諦め始めた風呂上がり、夜風に当たって髪を乾かそうと来島は甲板に向かった。そこには先客が居た。高杉は振り返ると来島を見て目を見開いた。前髪で顔を隠した後何事もなかったように無言でまた前を向いた。初めて見た表情に、初めて見た仕草に、なんて声をかければいいか分からず、星が綺麗ですね、と言った。緊張したせいか声が上擦ったし掠れていたかもしれない、届いていないかもしれない、と来島が俯くと前方から明日は晴れるから今日よりもっとよく見えるはずだ、と声が聞こえてきた。来島はハッと顔を上げるとそこに人影は無く、高杉は来島の隣を足早に素通りして行った。どんな顔で答えたのだろうか、どんな顔で横を通って行ったのだろうか。去って行く後ろ姿をずっと見つめていたけど高杉は一度も振り返らなかった。空なんて見ないくせに、飽きる程星が見える宇宙を飛んでる時ですら一度も星なんて見なかったくせに、来島は少し間を置いた後自室に戻った。

高杉は自分の向こうに誰を見てるのだろうか。自分は真っ直ぐ高杉自身を見ているのに。きっと敵わない。高杉の心を支配するあの人には敵うはずもない。苦しませるなら、哀しませるなら、もう切ってしまおう、と自室に帰った来島はハサミを持つ。綺麗に伸びた金糸にハサミを入れる。散らばった金糸を集めて、あなたが全てなのに、と一粒涙を零した。恐ろしい程の虚無感が来島を飲み込もうと襲いかかる。そこに障子を開ける音。顔を上げれば高杉が何処か哀しそうに目を細めて、お前の長い髪好きだったんだがな、と呟いた。高杉は床に置いてあったドライヤーをコンセントに繋いで短くなった来島の髪を乾かす。後ろに居るから来島には今の高杉の表情は分からない。けれど先程の哀しそうな目を思い出してまた涙が溢れそうになる。あなたにそんな顔をされたらどうしようもないでしょう、とやるせない想いだけを募らせる。傍に居ても寂しいのに、なんて到底言えやしない。高杉のことは何一つ分からないまま。ドライヤーの温風は髪を乾かすだけで来島の涙は乾かないまま。

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