思い返してみれば幸せだったんだと思う。
いってらしゃいと行ってきます。
おはようとおやすみ。
ずっと一緒にいれるなんて最初は夢みたいで。
なのにいつの間にか当たり前になって全然大事なんかじゃなくなって。
毎日のように笑ってた日々が嘘みたいに。

総ちゃん、歌ってよ。
何度も言ったわたしのこの言葉はいつしか呪いみたいに彼を縛って苦しめてたのかもしれない。
でたらめなコード進行でばかみたいな歌を歌って
わたしもばかみたいにハモってみたりして
そんな宝物みたいな日々はもうどこか遠くに行ってしまって
今のわたしたちは不協和音みたいでなんだか悲しくなった。

もう俺たち一緒にいない方がいいよ。
また子はちゃんと結婚して子ども産んで
そういう女としての幸せみたいなもんを掴んで方がいいよ。
俺と無理して一緒にいるよりずっといいよ。
今までほんとにごめん。
総ちゃんはそう言った。
わたしそんなのいらなかったのに。
無理なんてしてなかったのに。
でもこのままじゃきっと2人して駄目になってこの関係だって壊れちゃうって
わたしも心のどこかで思ってたから何も言い返せなかった。

じゃあ、と総ちゃんが出ていった部屋はなんだかとても広く感じて
今更寂しいなんて思って子どもみたいにしゃくりあげて泣いた。
泣いたって帰ってきやしないのに。
泣いたってあの日常は戻りはしないのに。
わたしがいて、総ちゃんがいて。
わたしが笑ってて、総ちゃんが笑ってて。
そんな毎日は、わたしたちの生活は奇跡みたいだったんだって思い知る。

曲書いたんだけどさ。
1番最初に聴いて欲しくて。
別にまた子のために書いたわけじゃないけど
なんだか1番最初に聴いて欲しくて。
そう連絡がきて待ち合わせた先に
ギターケースを背負った総ちゃんがいて
なんだか懐かしくて胸が締め付けられた。
上手く笑えたか分からないけど
久しぶりってサラッと言えた気がした。

学生時代よく使ってたスタジオを借りた。
アンプもエフェクターも使わないけどって笑いながら総ちゃんはギターを取り出して
何秒か思案したあと弦を鳴らした。
愛の歌でも恋の歌でもなくてよかった。
子どもの頃ギターを持って歌うことに憧れてて
いつしかその夢を忘れてしまって
だけどまた思い出したよって歌。
上手くいってもいかなくても
総ちゃんの作る歌が1番好きだと思った。
総ちゃんの作る歌は可愛くて優しく尊くて
わたしは気づかれないようにこっそり泣いた。
だけど歌い終わった総ちゃんはそれに気付いて
うんと優しい顔で笑ったんだ。



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