部室へ行く途中の階段で2歩後ろを歩くのが好きだった。1段飛ばしで階段を上るかかとの潰れた靴を見てあと1年早く生まれてたらなぁ、なんて悔やみながら好きだと改めて思う。晋助先輩。そう呼びかければんー、と言いながら振り返ってくれる。好きだなぁってわたしも1段飛ばしで階段を上って先輩の腕に絡みつく。先輩は特に何を言う訳でも無くわたしの腕を受け入れてまた歩き出す。1段1段ゆっくりわたしのペースに黙って合わせてくれる。横顔を覗きみれば少し微笑んでいるように見えて思わず誤解しそうになるから視線を逸らした。小さな窓から見える空は雲一つない晴天で顔が綻ぶ。次こそ上手くいくといいなぁ、なんて思う。

先輩に彼女がいるというのは彼等が付き合い始めた翌日に知った。あいつあんまりいい顔しねぇんだ、と苦笑う先輩にそうっスよね、と自分が出来る限りの笑顔を作って元気よく答えた。けれども心の底では悲しくって寂しくって涙が溢れ返る前にその場を去った。わたしは先輩以外には先輩の友達しか仲良い人が居なかったから必然的にそことの関わりも断たれて学校では独りぼっちかもしれないなと思うと次の日の学校が憂鬱になった。けれどクラスメイトは優しくて1度来島さんと話してみたかったんだよね、と声をかけてくれた。それが本心じゃなくても上っ面で表面上の付き合いでも今はそれで充分だし、先輩達もいつまで続くか分からないし、とそう考えてしまったわたしは最低最悪な人間だと思った。

そんな予感が的中したのか先輩は数ヶ月で別れてしまって。どっちが振ったのか知らないけれどわたしだったら絶対手放したりしないのになぁ。泣いてでも縋るのになぁ。でも先輩はそんな女は嫌いそうだなぁ。なんて色々考えたりした。別れたと聞いてすぐ先輩の元に行くのはなんだか気が引けたのでしばらく今までと同じようにクラスメイトと過ごす毎日を送っていたある日、先輩がわたしの教室に来た。来島さん呼んでって3年生が、とクラスメイトが少し怯えた顔で言った。廊下を見ればポッケに両手を突っ込んでだらしなく立ってる左目に眼帯をした男の人。久しぶりに見たその姿は何ら変わってなくて、これは確かに怖いよなんて思うとくすくす笑いがこみ上げてきた。なんだか嬉しくて少し早足で駆け寄ると先輩は部活行くぞ、と前と変わらない調子で言った。その背にはギターケースがあった。久しぶりに先輩がギターケース背負ってるのを見てこれからはまた一緒に居れるんだなぁ、と顔が綻ぶ。ちょっと待ってて下さい、と言って鞄を取って先輩の元へ行く。

前と変わらず1段飛ばしで階段を上る先輩はわたしに言うというよりは独り言のように別れた、とだけ言った。わたしも独り言みたいにそうっスか、と答える。あぁ。次は、次こそはわたしがいいな。わたしに順番が回ってきたらいいな。そう祈りながら上を向くと先輩はこちらに振り返って手を差し伸べてくれていた。恐る恐るその手をとると先輩はいたずらっ子みたいな顔をしてわたしの手を引っ張ってすいすい階段を上っていく。このまま1段飛ばしで何処までも連れってってくれたらいいのになぁ、なんて千切れるほど思いながら手を握り返した。

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