※直接的な表現はないですが軽くR-18な場面があります。






例えば無意識の内に後ろ姿を目で追っていたり、声を聞いて肩を震わせても沖田先輩は何も言わなかった。この間遊んだけど何も聞かれなかった、とあっけらかんと話す様を見てこの人と一緒になって良かったと心の中で小さく安堵した。これが例えばよく友達から聞くような嫉妬深い男だったならば何を言われるか分かったものじゃないし怒りの矛先がもしかしたらあの人に向かうかもしれない。それだけは避けたい。もしそうなったならば間違いなくあたしはあの人を庇うだろうし、そうなればもう泥沼だ。その点沖田先輩は嫉妬深くもないし、もしそのことで怒るならばあの人ではなくあたしを怒るだろう。そういう人だ。このままのあたしでいいと、まだあの人が心の中に居てもいいと、そう言った沖田先輩は本当に心が広いと思った。その優しさに甘えたあたしは最低最悪の人間だと思ったけれどもうこれ以上誰の支えもなくあの人に振り回されながら想い続けるのは無理だった。誰かと付き合ってみるのもありかもしれない。そんな話をした時の例えば俺とか、と無邪気な笑顔を愛しいと思ったのは間違いないし、一緒に過ごす時間は楽しくて居心地がいいのだからこれで良かったんだ。これ以上何を望むというのか。もう絶対揺らいだりなんてしない。あたしは沖田先輩に惹かれ始めている。夏休み前沖田先輩の手を握りながら帰り道そう思った。

てっきり俺のこと好きだと思ってたんだがな。
その一言に驚いて声も出ない。その間彼は終始あたしの目を見つめているから何だか目が離せなくて余計胸が詰まる。今は違うんだと、沖田先輩が好きなんだと、そう言いたいのに声が出ない。思わず目を伏せた。目の端に溜まった涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に耐えた。

夏休み中沖田先輩の家にお邪魔しようと向かっている途中見慣れた、でも久しく見ていないその姿に心臓が大きく脈を打った。何処か路地に隠れようと辺りを見渡している間に向こうもこちらに気づいたようで来島、という声が聞こえる。懐かしいその声に思わず顔を上げてしまう。見上げた先にある穏やかな笑顔にずるいなぁ、と心の中で悪態をつく。いつだってこちらが離れればそうやって優しさを見せる。元気だったかなんてたわいもない話の後唐突にあんなことを聞くから驚いた。

今は沖田先輩のことが好きだから。
そう言ってその場を走り去ることしかできなかった。走って走って。途中転んでしまった時に擦りむいた膝から血が流れていたけどそれも構わず沖田先輩の家をひたすら目指した。チャイムを鳴らして出てきた沖田先輩はあたしの顔を見て驚いた後まず手当てするか、とあたしの手を引いて部屋に招き入れた。消毒液をコットンに染み込ませながら沖田先輩は泣くほど痛かったか、と笑った。その時我慢していた涙が頬に流れていたことに初めて気付いた。本当のことなんて言えるわけもなく涙を拭いながら何度か頷いた。その様子を見てまだまだガキだな、と沖田先輩はまた無邪気に笑った。

そういえばさっきまであいつ来てたけど会ったりしなかった?
その問に思わず肩が震えた気がしたけれど沖田先輩は消毒液を救急箱にしまっている最中でこちらは向いていなかったからきっと気づいてないだろう。小さく息を吐いて会ってないです、と答えた。何だかバツが悪くて目を見れない。頬に伸びた沖田先輩の掌は思ったより冷たくて少し後ずさりしてしまう。眉尻が下がった沖田先輩の顔は傷付いているように見えた。違くて、手が冷たくて、びっくりして。あたしのぎこちない言葉に沖田先輩は眉尻を下げたまま笑っている。Tシャツの裾を掴んでもたれかかる。あたしからそうやって沖田先輩に触れたのはこれが初めてだった。髪を撫でながらぎゅっと抱き締めて沖田先輩はあたしにキスをした。愛に満ちた行為に幸せを感じた。あの人以外の誰かがこんなにあっけなくあたしに幸せを与えてくれると思わなかった。だから見上げた先の沖田先輩のしようか、という一言にだってすんなりと肯けた。

だからするりするりと服を脱いで生まれたまままの姿で肌を合わせている間あの人がよく吸っていた煙草の匂いがしたって気にしないようにした。けれど目の奥がツンと痛くなってそれを誤魔化すように沖田先輩の丸い頭に頬ずりをしたあたしはまだまだ弱虫だな、と無性に泣きたくなった。

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