気にならないのか。その一言に沖田は視線だけ少し上げた。視線の先の土方は少し気まずそうに、でも真剣に聞いている様子だった。何のことかなんとなく察しはついていたがあえて何が、と問う。土方は遠慮がちに指を差してあれだよ、と言った。その指差す先には金髪が揺れてる。授業終わりの疲れきった瞳には眩いくらいのそれに沖田は一度目を伏せてもう一度目をやった。廊下には高杉と楽しそうに話す来島の姿。あぁ、とダルそうに相槌を打った後別に、と目を逸らした。土方はまだ何か言いたそうな顔をしていたが溜息を一つ吐けば黙りこくった。人のことなんてほっといて自分のことだけ考えてればいいのに、と自身の姉の顔を思い浮かべながら心の中で悪態をつく。心配なのは分かるがもう子どもじゃあるまいし人様の恋愛にまで首を突っ込むなよ。続けて悪態をついているともう部室に着いていたようで道着に着替えて練習に励む。今日も高杉と帰ったのか、なんて余計な考えを振り払うように無心で竹刀を振るった。

気にならない訳じゃなかった。なんとなくとは言ってもちゃんと告白もしたし付き合おうと言って付き合い始めた仲。その際最初に確認だってした。お前高杉のことはどう思ってんの、と。来島は少し思案して人として好きかな、と歯切れ悪く答えた。何だそれ。半ば呆れながらそう言おうとした時来島は続けてでも男の子として見るのは沖田先輩だけだと思う、と頬を赤らめて言った。少し潤んだ碧い瞳は自身の瞳とかちりと合ってこちらまで恥ずかしさが伝染する。そりゃ男冥利につきるな、などとよくわからない一言を呟いて視線を逸らすと後ろでくすくす、と笑い声が聞こえる。沖田は慌てて何だよ、と視線を戻した。そこには頬を赤らめたまま柔らかく笑う来島の姿があってその後の言葉を全部飲み込んで沖田は来島を抱き締めた。人間は結構単純だと思う。たとえばつり目気味の碧い瞳とか白い肌とか金髪とかそういう外見が好きだとか、生意気そうに見えて実は健気で愛らしいところがあるだとか。色々理由なんていくらでも付けれるけれどそんなの全部後付けで恋に落ちるのなんて理由が無くてもっと簡単なことなんだと思う。特別な異性として見れるかどうか、とか。沖田は思春期特有のような甘酢っぱいことを考えながら愛おしくてたまらないとばかりに来島を抱き締めた。来島の腕も確かに背中に回っていて。それだけで充分で高杉なんてどうでも良くなっていた。

けれども現実はまざまざと見せつけてくる。付き合うとなっても変わらない距離感。来島は高杉とばかり居て自分とは全く居ない。そもそも誰にも付き合うことを言ってないから誰も知らない。それに加えてこの現状。本当に付き合うことになったんだろうか。沖田は少し不安を覚えながらもその日はちょうど部活が休みで来島は帰宅部だったのでメールを送った。じゃあ放課後一緒に帰りましょう。その返信に顔が綻ぶ。やっぱり大丈夫だと胸を撫で下ろし携帯を閉じた。放課後誰も居なくなったZ組に来島を呼ぶ。来島は沖田が座ってる机をそっと撫でてここが沖田先輩の席か、と笑顔を見せた。この笑顔にいつも目を奪われる。きっと自分しか知らない、誰にも見せてないであろう甘ったるい笑顔。今日あった出来事を身振り手振りで楽しそうに来島は話す。それに相槌を打つ。時々挙がる高杉の名前にどきりと反応はしてしまうが来島、と呼びかければ話を止めて甘ったるい笑顔をまた見せる。それだけで割と満たされた。たとえ来島を見る高杉の視線が熱を孕んでいようが来島は気づかないだろうし、こいつが特別に見てるのは自分だと思えば気持ちに余裕だって生まれた。

ふと我に返った沖田は最後の一振りをしてだから大丈夫でさァ、と隣で素振りを続ける土方に言った。土方は先程の話をもう忘れていたようで何が、と言ったがそれを無視して部室に戻る。制服に着替えて靴箱に向かうとそこには夕日に照らされた金髪があった。あれ、帰ったんじゃねーの、と言うと今日は練習早く終わるって聞いたから待ってたんス、と来島は笑った。慌てて靴を履き替えながら誰に聞いたか聞けばミツバ先輩、と返ってきたので心の中で流石姉ちゃん、と感謝する。靴を履き終えて手を差し伸べる。白い手を握って帰り道を歩き始める。夕日に照らされて2人の頬には赤がさしていた。

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