※過去捏造(また子が幼少期から鬼兵隊に居る設定)あります。





幼き日来島は一人で出歩かない、という言いつけを破って出掛けた。少しの散歩くらいなら大丈夫だろうと小さな身体を生かし、物陰に隠れながら人の目をすり抜け船から降りた。久しぶりに地球に降りたというのに何処にも行けないなんてただでさえ退屈なのに言いつけた本人は朝から一人何処かへ出掛けており、半ば八つ当たりのように出掛けた足が地を踏む感触に胸が弾む。目一杯深呼吸すれば久しぶりの地球の空気が身体一杯に駆け抜けてとても気持ちいい。もう少し歩こう、と小さな一歩を踏み出す。少しの罪悪感から道端の綺麗な花を幾らか摘んだ。これは自分の部屋に飾って、こっちは晋助様にあげよう。そう考えながら道を歩いているとだいぶ進んだようで木々が増えていた。来た道を帰ろうと振り返っても木々ばかりで帰り道か分からない。急に心細くなり一人で来なきゃ良かったと後悔した。泣いたって仕方ないのに涙は次から次へと溢れて来てそれに呼応するように雨が降り出した。慌てて木々が生い茂ってるところに移れば葉に遮られ雨粒の量はかなり減り、雨宿りにちょうど良かった。空を見上げれば晴天でにわか雨だからすぐ止むだろうと少し時間を潰すことにした。

木の下でうずくまっていると遠くから幾つかの足音が聞こえる。耳を澄ませば結構な人数がいるようだった。もしかしたら大人かもしれない。道を教えてくれるかもしれない。そう思って足音のする方に進んだ。人影が見えて来たので駆け寄るとそれは人であって人で無かった。狐の顔をした人の行列がそこにはあった。その光景はとても恐ろしくて、けれどもとても綺麗で目が離せなかった。震える身体で立ち尽くした。狐の行列は来島に気付くことなく淡々と進む。一人で外に出るとこんなに恐ろしいことが起こるのか、だから晋助様は一人で出掛けるなと言いつけたのか。そんなことを思った。結局狐の行列は来島を一度も見ることは無かった。最後尾の背中が見えなくなるまで見つめた。気が付けば雨はもう止んでいて遠くに光が差している。光を辿るように進むと拓けたところに出た。空には大きな虹が架かっていた。

おい、という低い声に振り返ると赤茶けた髪がなびいていた。晋助様、と泣きながら駆け寄れば高杉は来島の小さな身体をぎゅう、と抱き締めて心配した、と呟いた。ごめんなさい、と来島は何度も謝った。けれど高杉の鋭い瞳は変わらず来島は目を伏せた。背中に隠したままだった花を差し出した。高杉は一瞬哀しそうに笑ってその花を受け取った。その花を来島の耳にかけた。淡いピンクの花は来島の金糸によく映えた。目を細める高杉を見てもう大丈夫だと安心した来島は高杉の着物の裾を引っ張り虹を指差した。綺麗だな、という高杉の言葉に満足して満面の笑みで一緒に帰りましょう、と手を握った。

あの時見たのが狐の嫁入りだと知ったのは来島が大人になってからだった。あの日と同じような晴天の日甲板に出るとちょうど高杉が居たので懐かしくなり昔話をした。高杉はそうか、狐の嫁入りを見たのか、と少し驚いたように言った。怖かったけどすごく綺麗でした、と言うとそりゃ羨ましいなァ、と高杉は煙を吐き出しながら答えた。わたしもいつか結婚するのかなぁ。特に綺麗だった狐の花嫁様を思い出して呟いた一言は青空に消えていった。自室に帰ろうとしたら高杉は来島の結ってある髪に何かを差してそのまま去って行った。何だろう、と手に取ると赤い簪がしゃらん、と掌で鳴った。晋助様、この意味って、と小さくなった背中に大きな声で叫べばさァな、と返事が返って来た。もう一度手のひらを見れば日の光を浴びてキラキラと輝く綺麗な簪が間違いなくそこにあった。これは夢だろうか。狐にでも化かされたのだろうか。気付けばまたあの日と同じようにぽつり、ぽつり、と雨が降ってきた。

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