※死ネタ注意です。





真っ白な世界に嫌な程映える赤に織姫は目を逸らした。けれども点在する多数の血溜まりはどうしてもその茶色の瞳に映り込んでくる。織姫は思わず両手で顔を覆ってその場に座り込んだ。血の匂いに目眩を覚えていると何処からか足音が聞こえた気がした。まるで処刑台に繋がる階段を上がるみたいに無機質で淡々とした足音。それは此方に向かっていてきっと次は自分が処刑される番なのかもしれない、と織姫は予感した。その足音はやはり織姫の傍で止まったけれどこの足音の主が処刑人ではないこと、自分は処刑などされないことは最初から分かっていた。そして自分を助けに来たヒーローでないことも重々承知していた。足音の主なんて1人しか思い当たらない。周到に感情を隠して顔を上げたけれど上手く出来たかは分からない。瞳に映り込んだのはやはり織姫が想像していた通りだった。織姫よりずっと上手く感情を隠していたけれど。と言うよりも感情など初めから持ち合わせていないけれど。

ウルキオラはその白い手を差し出した。織姫はおずおずとその手を取る。その冷たさに肩が少し震える。そういえばこの人は冷たい手をしていた、と織姫は思い出した。もう随分と誰にも触れていない、あの時以来。織姫を助けに来たオレンジ色の髪をした少年が死んでしまったあの日以来。織姫は彼の身体をウルキオラが貫くのを確かにその目で見たけれど為す術など無くて、途方に暮れて、立ち尽くして泣くしかなかった。六花のヘアピンに触れようとするより早くウルキオラは織姫の六花を破壊した。まるで花を手折るかのように容易く。本当に、文字通り、為す術が無くなって茫然とする織姫とは裏腹にウルキオラはその場に居る全員を処刑した。処刑したと言うよりはその手で消した。その様はまるで悪魔のようだった。きっと彼は悪魔だったのだ、だって姿形だって悪魔そのものだ、と織姫は思った。

全てが終わった後、織姫が正気を取り戻した後、ウルキオラは自分の目玉を取り出し六花を壊した時と同じように自身の目玉を砕き織姫に過去の映像を見せた。それは先程までの惨状。織姫からは見えなかったオレンジ色の髪の少年の表情までも鮮明に映ったそれに織姫は声を出すことも涙を流すことも出来なかった。

まだ耳にかかったままだった六花を取り上げ粉々に砕き、ウルキオラはお前にはこの花よりリンドウの方が似合うな、と一言言う。先程差し伸べられた手はもうポケットの中。リンドウの花言葉を知った上で言ってるのだろうか、だとしたなんて皮肉。抱きしめる気も無いくせに。自分が今あの瞬間を思い出して哀しみと絶望のどん底に居ることを看破した上で何もしないなんてやはり彼は悪魔なんだろう。きっとここにリンドウが咲いていたなら六花の代わりに耳に掛けてくれたかもしれない。けれどここは砂漠で花なんて咲かないし。やはり残酷。心諸共粉々に砕けて、ウルキオラと2人きりの白い世界で、織姫はもうどうすることも出来ないのだ。

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