いつもみたいに


冗談だって云って


笑ってくれないんだね一一










「わりぃ、俺と別れてくれ」



天火から云われた言葉に、わたしはすぐに反応出来なかった


聞き間違いだと思った
何かの冗談だって…



『どう、して…?なんで、急に…?』


信じられなかった

だって、昨日までは普通だった


一緒に散歩して

手を繋いで

笑っていたのに…







「他に、好きな奴が出来たんだ」







涙は

出なかった



悲しくて、苦しくて、泣いてしまいたかった






でもそれをしなかったのは







「…っ」





天火がわたしよりも悲しい顔をしていたから





悔しそうに唇を噛んで


見ているこっちが辛くなるほど


泣きそうな顔をしていたから









『そっか…、好きな人…出来たんだ…』



でもね、天火


わたし今までずっと一緒にいたからわかるんだよ



あなたの表情を見てわかった




それが嘘だってこと一一







「お前には、俺なんかよりいい奴が絶対見つかる。だから、こんな最低な男のことなんて忘れてくれ」


そう云って天火は、そのままわたしに背を向けて歩み出した





優しい天火


わたしに未練が残らないよう、あんな云い方したんだね


バレバレだよ

あんな顔して好きな人が出来たなんて、全然説得力ないよ?



だけど、やっぱりキツイね


理由がどうであれ、わたしは天火から別れを告げられたんだ







天火に好きな人が出来たから一一






嘘だとわかっていても悲しいね


どうせならもっと手酷く振ってくれても良かったのに…




理由はわからないけど、わたしは諦めないよ

必ず、この曇天の空の下、また二人で笑いあえる日が来るって信じてるから




だから


天火を想うこの気持ちだけは絶対変わらないよ







また笑える日が来るまで





「またね…」







ずっと待ってるよ一一






わたしの頬を伝う雫が


ゆっくりと地面に吸い込まれていった







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