あなたを想うこの気持ち


今日こそ伝えたいと思います






















「なんだよ天華、俺に云いたい事があるんだろ?」

「黙ってちゃわかんねぇよ」と天火は苦笑をした


ここは曇神社の天火の自室
するとそこに幼馴染の天華が突然訪ねて来た

それはいいのだが一一一




『……』

当の本人は何故か黙ったまま、時折天火をチラ見して頬を赤く染めるという行為を繰り返すだけ

さすがの天火も困り果てていた
















ああ!何で云えないの!

たった二文字を云うだけなのに!

天火だって困ってるじゃん

でもこれでもし天火と気まずくなっちゃったらわたし……




そんな心の葛藤を続けること早10分一一





「天華悪いな、俺この後仕事で出なきゃいけねぇから、その云いたい事ってやつまた今度でもいいか?」

『!?』

曇家長男にして当主である天火はこう見えて忙しい身だ
日に日に増え続ける逃亡者を琵琶湖の真ん中にある監獄、獄門処に連れて行く時もあれば、この地を乱す悪人を捕まえる時もある

そうやってこの地の治安を護るのが曇家の役目であり、天火の責任でもあるからだ







この機会を逃せば、もしかすると自分は天火にこの想いを伝えられないまま終わってしまうかもしれない

何故かそんな思いがあった



今伝えないと、きっと一生後悔する

そう思った天華は曇の印がある天火の羽織の裾をぎゅっと掴んだ



「天華ちゃーん?天火さんお仕事行かないといけないんだけどー?」
そう云って未だに裾を掴んで離さない天華の頭を撫でる




天火は優しい

天火の人当りの良さ、お人好し過ぎるところ、明るい振る舞い、

そしてあの太陽のような笑顔一一一


だから皆に好かれる

そしてわたしもその一人だ

云える、今なら!



















『天火が好き』




天華がそう云った途端に今まで頭を撫でていた天火の手がピタッと止まった




その場をしーんとした空気が流れ、天華は緊張と不安のあまり泣きそうになる

すると















「馬鹿、云うのが遅ぇんだよ」

天火がそう云った次の瞬間、天華は腕を引かれ強く抱きしめられていた






「あー、長かった。お前俺がどんだけ我慢してたかわかってる?」

『え?待って、状況がさっぱり…』

既にテンパってしまっている為、天華は今の状況を整理するのに精一杯である


「だから、こういうことだよ」


不意に自分の唇にやわらかい感触を感じた
それが天火のものだとわかったときには二つの唇は離れていた



『天…火…、今のって一』

「好きだ」



天火からの告白に天華は目を見開く



「俺もお前と同じ気持ちだ」と嬉しそうに云う天火の顔はとても幸せそうで、何故か悲しそうにも見えた





『本当に?いつもみたいに冗談とか云わないでよ?冗談だったら泣くから』

「おいおい、俺の気持ちを疑うのかよ?云っとくけどな、好きになったのは俺の方が先だぞ絶対」


自信満々な天火にどういうことか聞くと、物心ついた頃には既に天華を想っていたということを話し始めた



「やっとお前が俺を意識してると思って期待してみれば何もねぇし、今日だって云いたい事があるからって俺の部屋を訪ねて来たと思えば黙り込んじまうし」


俺がお前からその言葉を聞くのにどれだけ待ったと…、と永遠と語り続けそうな天火に恥ずかしくなったのか、天華は『もういいから!』と話を中断させた





『でも天火から云ってくれても良かったんじゃない?わたしの気持ちわかってたんでしょ?』


「誰だって一度は惚れた女に頬を赤らめながら好きっ!て云ってもらいたいもんだろ?だから敢えて云わなかった」


頬を赤く染めた天華は可愛かったなー!などと満足そうに云っている天火に若干の不満を募らせるが、今は同じ気持ちでいてくれたことに喜びを感じようと天火の背に自らも腕を回した









『ずっと一緒に居ようね、天火』

「ああ、そうだな」













それが叶わないと知りながらお前の傍に居たいと思うのは

俺の我儘なのだろうか一一一?



いつかきっと、この笑顔を泣き顔に変えてしまう時が来る

この気持ちを受け入れることがどれだけ残酷なのかもわかってる

ただそれでも、時間の許す限り……一一











「お前の傍に居たいんだ」












果たしてこの先、二人が辿る運命は幸か不幸か

それは神のみぞ知る












end












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