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その後、天火から自室へ来るよう云われ中に入ると、空丸の前にはむっすーとしたご機嫌斜めの兄と困ったように微笑む天華が座っていた
「で何?空丸君はお兄ちゃん達に内緒で家で??獄門処に??」
「…それは」
「しかも犲に剣を請う為に交換条件でだと…?」
すると急に机に突っ伏した天火はわっと泣き始める
「お兄ちゃんよりあんな根暗ロン毛が良いって云うの!?」
思わずそこかよと冷静に返す空丸に、今度は天華が口を開く
『空丸、無事で良かった。空丸なりに考えて、強くなりたいが為の賭けだったことはわかるよ?でも、こんなことはもう二度としないでね?』
天華の安心した顔に空丸は眉を下げると、膝にある握り拳にギュッと力を入れた
「勝手なことして本当に悪かったと思ってる」
「おう、下手すりゃ戻って来られなかった。死ぬ事だってあったかもしれねぇ」
天火の云うとおり、獄門処は危険な場所だ
今回は白子さんのおかげで怪我もなく、空丸は無事に帰って来ることが出来たけど…
もしかしたら、わたしはまた、大切な家族を失っていたかもしれないと思うと胸が痛い
「覚悟してた」
そんな言葉、聞きたくなかった
死ぬ覚悟なんてしてほしくなかった
わたしの心情に気づいたように天火は膝の上にあるわたしの手をその大きな手で包み込む
まるで大丈夫だと云うように一一
「そんな独り善がりの覚悟なんざいらねぇんだよ。宙太郎が心配した、白子にも迷惑かけた、俺と天華が乗り込んでやろうかと思った。どうだ、お前の為に総動員だぞ」
本当に、空丸が無事で良かった
心からそう思う
『空丸…、頼っていいのよ?』
「何で頼らねぇんだ、家族だろうが」
空丸はうつむくと天火と天華から譲り受けた曇家の宝刀を見つめたまま、今の思いを口にする
「そうやって、いつも守られてるの知ってる。十一年前、姉貴が俺を庇って背中に傷を負ったことも」
「!」
『えっ…?』
まさか、全部思い出して…?
「お前…思い出したのか」
「全部。思い出せて良かった、姉貴と兄貴にだけ背負わせていく所だった」
あんな重くて暗い記憶
二人だけに背負わせて良いわけがない
「二人の言葉そのまま返す。家族だろ、何で頼ってくれねぇの」
『空丸…』
空丸の言葉に目を見開く天華と天火
しかし二人の心の内はとても複雑だった
もちろん、空丸の言葉は二人にとって嬉しいものだ
ただそれ以上に悲しみの方が上回ってしまう
その理由は本人達のみぞ知る
「きっと宙太郎だって思ってる。いろいろ間違えるけど、"曇"を誇れるように毎日剣振ってるし勉強してる」
頼って欲しい
「俺達を越えてみせろ」
「あの約束、果たしてみせるから」
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