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一一滋賀県 大津一一






天気 大いに曇り






「あ 起きた、おはようっス」

「お前…っ」

次に白髪の男が目を覚ますと、目の前には幼い少年の顔。起き上がった男がいたのは琵琶湖の真ん中に浮かぶ舟の中だった




「あんた、護送中に警官殴って逃走したんだってな。罪人は逃げちゃ駄目でしょ。罪が重くなるだけだぜ」

その青年は男が逃げている最中に恐れをなしたあの青年だと気付いた



「お前等、役人か!?」

「いーえ、そんな大層なもんじゃ御座いませんよ。ただの琵琶湖の橋渡し人だ」



青年の名を曇 空丸

少年の名を曇 宙太郎



「さぁ着いたぜ。今日から此処があんたの家だ」





日本最大の監獄

一一獄門処一一






無機徒刑・流刑懲役刑の者の集治監

所謂、重犯罪者専用の檻


男はそれを見た瞬間狼狽え、怯えた

「た、頼む!逃がしてくれ!此処にだけはいたくない!!持って来てないんだ!」



ぎゃあああぁああぁあ!!!

「!!?」

監獄の中から聞こえる痛々しい声



「ああ、またやってるのか。彼処は懲罪房だ。日に何人も収容されるらしいぜ」

空丸はさして気にしていない様子で男にそう告げる。


「なに、死んだ奴はいねぇ、安心しな。逃げようなんて思うなよ。いっぱい苦しんで、罪を償って来い」











明治十一年



幕末が終わり、文明開化が幕を開けた


欧米化が進み、煌びやかな衣装に建物


近代日本の大きな第一歩である


廃刀令が出され、侍と云うものがいなくなった世の中で、人々は活気に満ちていた


しかしその裏では、変わりゆく日本一一


新政府に不満を持つもので溢れ返っていた


監獄は囚人で埋まり、脱獄も後を絶たない


そこで政府は一つの案を立てた


一一脱走不可能な湖の監獄一一


日本最大の湖


琵琶湖の中の巨木の監獄


高い壁と水で囲まれた檻は未だ脱走者を出さず


罪人にとって煉獄の住処となる






「琵琶湖の真ん中に監獄とは政府も思い切った事考えたが、代々それの橋渡しをする俺等曇家のことも気を遣ってほしいぜ。姉貴の苦労も少しは減らせるかもしれねぇのに」

「にー」

「もう少し給料上げてくれねぇと生活厳しいんだけど」

「どー」


空丸と宙太郎はそんな事を話しつつ、舟を漕ぎながら自分達の家に帰っていった











  







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