6-2
「それでは今後ともよろしくお願いします」
『はい、何かあればいつでも云って下さいね』
「じゃあなー、牡丹先生」
夜会に出席する天華と天火を見送りながら牡丹は温かい気持ちになっていた
天華と天火の人柄もそうだが、二人の笑顔が牡丹の気持ちを明るくさせたのだ
あの二人はこの地を照らす太陽のような存在
失われてはいけない人たち
しかし何故か不安も感じていた
「あの方達の行く末がどうか幸せなものでありますように」
太陽が沈むことのないようにと、牡丹は二人の背が見えなくなるまで祈り続けた
「なぁ天華、さっきから何考えてんだ?こうも静かだと俺一人で歩いてるみたいで寂しいんだけど」
『え?ああ、ごめんね天火。ちょっといろいろ…ね、それより24歳になってまで一人が寂しいなんて大人としてどうなの?』
「天華ちゃんってばなんで最近俺に対してそんな冷たいの!?空丸達にはあんなに優しいくせに!」
むっとする天火が面白くて思わずクスッと笑うと、それに対しても不満を零し始める子供のような24歳
その仕草はまだ幼かった天火を思い出させ、わたしの心を癒していく
「あんなに小さかった天火がこんなに大きくなって、今じゃ曇家の当主なんだって思うと感慨深いね」
それだけ時が経ったということか
きっと空丸や宙太郎も、わたしが知らない間に成長して大きくなっていく
そうして
わたしはみんなに置いて行かれるのだろう
「まったく、いつになったら天華ちゃんは俺の事を子供扱いしなくなるんですかねー。昔と違って強くなったと思うよ、俺は」
『知ってる、わたしが一番近くで見てたからね。天火はすごく強くなったよ』
穏やかに笑う天華に天火は真剣な顔つきになる
「そう思うなら俺に隠し事なんてするな。些細な事でもいい、俺に何でも話してくれよ」
一人で先に行こうとするな
俺は、お前に追いつくので精一杯なんだ
「俺はお前が大事なんだ、護りたいんだよっ、少しは護らせてくれてもいいじゃねぇか…」
いつも空丸や宙太郎の前では決して見せない姿を見せる天火
そんな天火の頬に手を添える天華の目には慈愛が溢れていた
「天火は強くなった、大人になった、でも…、どんなに時が経とうとわたしにとっては大事な"弟"であり家族なの。姉としてのプライドかな?一人でなんでもやろうとするのは」
だから護らせてくれない
そういうことなのかよ
俺達の為に自分を犠牲にして、女としての幸せすら捨てたお前に出来ることはなんだ?
出来ることなら俺自身の手で幸せにしてやりてぇ…
けどそれはもう無理なんだ
なぁ、俺はどうすりゃ良いんだよ
『天火が笑っていてくれれば、わたしはそれだけで嬉しいし幸せだから』
だから笑って?
頬に添えられた彼女の細い手を上からそっと天火の大きな手が包み込む
「お前はずるい女だな、天華……」
俺は今、上手く笑えてるか?
『ありがとう、天火』
わたしの為に笑ってくれて一一
一緒にいてくれて一一
『ほら、夜会に遅れちゃうから急いで仕度しに行かないと!』
繋がれた手が離れないように、天火は引っ張ってくれるその手を強く握り返した
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