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『寝ちゃいましたね』

「自分から誘ったくせに」


あの後、天火は白子がこの部屋に来る前から酒を飲んでいたこともあり、すぐに酔い潰れてしまっていた


それも天華の膝の上でだ
時々「天華〜」等と寝言を云っている




「ねぇ天華、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


天火の髪を優しく梳きながら天華は白子と視線を合わせる



「どうして曇神社の当主にならなかったんだい?」


その問いは白子が長年不思議に思っていた事だった


天華は強い
それは白子が身をもって知っている


だからこそ、当主を継ぐのは天華だと思っていた



『白子さんは、わたしと天火達に血の繋がりがないのはご存知ですよね?』


それは知っている
何年か前に天火が云っていた



『元々はわたしが継ぐ予定だったんですがある日急に、天火が曇神社の当主は俺が継ぐって云って聞かなくて…』

それが今に繋がります

そう云って困ったように天華は笑った



『でも、わたしはこれで良かったと思っています。周りが家族だと云ってくれても所詮血の繋がりがないわたしは他人です。大湖さんと小雪さんの本当の息子である天火が当主になるのが一番良いと思ったのもまた事実です』


現に今、この滋賀の地は天火によって治安が護られていますから一一一



これがわたしが当主にならなかった理由なんですがおかしいですかね?と聞いてくる天華に白子はいや、と首を横に振った




「さぁ、もう遅いし俺達も寝ようか」
『そうですね、明日は仕事もありませんからゆっくり休みましょう』



そうして天華と白子も寝室に向かったのだった














次の日一一一





「信じられねえあのクソ兄貴!!」

太田診療所に空丸の怒声が響きわたる


「…また長男が何かやりおったのか?」

そう返すのはこの診療所の先生だ
何かと世話になっている為、曇家にとっては馴染み深い先生である



「一晩中酒に浸ってやがった!おかげで今月の酒代が消えたっつーのにあのドグソ兄貴っ、後で姉貴と一緒に兄貴も来るはずなんで苦い二日酔いの薬用意してください!」


「何じゃ、結局心配…」
「めっちゃ苦いので頼みます!!」



空丸の首周りには先日の罪人に付けられた後が残っている


しかし首を触られるのが苦手な為、先生の治療は受けていない




あの時の一瞬浮かんだのは何だったんだ…
もう思い出せねぇ…


ただ


ひどく暗くて


気持ち悪い


手…が…


ゾワッ



突如感じた首周りの悪寒に空丸は思いきり後ろにいる人物を突き飛ばす

そこには宙太郎が驚いた様子で尻餅をついていた




「そ、空兄…?えっと…冗談スよ?冗談で首触ろうとしただけで一一一…」


「悪い先生、またな!」


気まずそうな顔をしながら空丸は診療所を出て行った





「へーい先生、今空丸が出て行ったがもう終わったのか?」

『ご無沙汰してます』


ちょうど空丸が出て行くのと同時に来た天華と天火に宙太郎は泣きついた



「天華姉ェエエエエ!!天兄ィイイイイ!!空兄に大嫌いって云われたっス!!!」


「おーう、今お兄ちゃんを揺らしちゃいかんよ」

天火は二日酔いによる吐き気に必死に堪えている為、今揺らされると非常にまずい

なので代わりに天華が宙太郎の突進を受けた



そんな宙太郎に天火は空丸と仲直りする為のある助言を出すと、すぐに宙太郎は診療所を出て行った




「さてと、天華は腕を怪我してるんじゃったかな?どれ、診せてみなさい」

『云うほど大した傷じゃないんで大丈夫なんですけどね』

「先生ー、天華の治療は念入りによろしく。あと、二日酔いの薬くれ」





  







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