( 04 )


「どうしてお兄ちゃんは覚えていたの?」

私が幽霊が見えるって。吹雪さんをキャラバンへと運んでからそう聞いた。ゴーグルの奥から赤くて鋭い目が私を見据える。私はそれを逸らさず真っ向から受け同じようにして見つめ合う。

「吹雪と出会って一週間目だ」

重苦しい空気を割いて喋りだした。吹雪さんと出会ってから一週間目とはどういう意味なのか解らず耳を傾けて一つ一つの言葉を聞き逃さないようにする。

「あいつと出会ってからお前は時々何処かへいなくなる時があった。そして練習や食事といった時は執拗に吹雪の処を見ている。しかし、よく見ると何もない所だったんだ。俺がその異変に気付いたのは」
「吹雪さんを仲間にしてから一週間目…ってこと?」
「…そうだ」

流石と言うべきか、兄の視察力に対して関心せざる得なかった。記憶力も良い彼はきっとその行動から昔の事を思い出したのだろう。もっと慎重にすればよかったなんて今になっては後の祭りだ。こうなったらお兄ちゃんには私のアツヤくんへ対する気持ちも全て明かすべきかな。ああでもお兄ちゃんからも変な目で見られるのはとても恐い。ぐるぐるぐるぐる頭の中で考えても恐怖心が大きくてやっぱり止めた。私一人だけの秘め事。かっこいいような気がするけどそれは辛いだけだった。キャラバンに寄り掛かって空を見上げものふけていると視界の端に陰から赤が見えた。

「音無さん、吹雪くんに告白出来た?」

バットタイミングとは正にこの事でひょこっと出てきたヒロトさんを軽く睨んだ。「あ…鬼道くん…」とお兄ちゃんを見つめて苦笑するヒロトさんを手招きで呼んで笑顔を向ける。そしたらあまり良いとは思えない顔色がもっと悪くなったように見えたけど私は笑顔を絶やさない。心から怒った時ってどうやら逆に笑顔になっちゃうタイプみたいです。

「…吹雪に告白とは?」
「なっなんでもないのよお兄ちゃん!」
「春奈」
「………はい」

ヒロトさんのせいで更に状況が悪化したじゃないですか。横目で恨めしそうに見ると目を横に思いきり逸らされるから頬を膨らませた。こんな急展開誰も望んでいやしなかったのにと思っても今更どうにもならない事は知ってるけど。数回に渡って深呼吸をしてから私は言う。

「あのね、私は告白しようと吹雪さんを探してたの…。けど私が好きなのは吹雪さんじゃなくてアツヤくんの方で、告白もアツヤくんにするつもりで…え?」

言い終わろうとした時に私は驚いてしまった。ポカーンとだらしなく口を大きく開けてそこにいたのはお兄ちゃんでもヒロトさんでもなく、

「アツヤくん…?」
「お、う…」

ちゃんと返事をくれた事に対する喜びに浸ってる場合じゃないわ音無春奈。だからこんな急展開誰も望んでませんって。熱が顔に集中するのが解ってあまりの恥ずかしさにその場を走り去った。後ろから「どうした!?」っていう声が聞こえたけれど今はそれに答えられないの。私は、告白をしようとしたけどこんな展開でなんて想像した範囲外で頭が自分でも追い付けてない。今日は色々とありすぎる。不規則な息を整えて無意識にやって来たグラウンドのサッカーゴールに身体を預けた。頭の中はぐちゃぐちゃで大変だっていうのにアツヤくんの顔が過ってしまうなんてまるで中毒よ。



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あまりの急展開に書いた人も追い付けてないぐらいにはぐだぐだな4話