( 02 )


溢れた


まさかとは思う。名前も知らない話したのもあれが初めてだった、しかも幽霊。そんな人に私は多分、恋をした。吹雪さんの隣に立つ姿を見る度に胸がいっぱいで触りたくても触れなかったもどかしさと距離に苦しくなった。あれから目を合わせてみようとしたけどやっぱりあの時のキスが効いたみたいで顔を真っ赤にしながら逸らされてしまう。意識されるのは嬉しいのだが反面寂しい。不意にトン、と優しく肩を叩かれた。

「そんな所でぼーっとしてどうしたんだい?音無さん」

振り返ってみると燃えるようなそんな力強い赤ではなく夕暮れの空のように優しい赤色の髪と翡翠の瞳が見えた。

「ヒロトさん!」

思っていたよりも大きな声を出してしまっていたようで「驚かせちゃったかな?」とふわりとした微笑みを浮かばせながら私の隣に並んだ。そのまま二人の足は自然と木陰へと進まる。今は残暑で秋の色はまだ見えず暑い。それなのに北海道で雪が降っていたのは異常気象だろうか。そして雪と言えば、雪原に立つ幽霊はとても美しかった。吹雪さんが遭難していた時にずっと寄り添うように側にいてあげていた幽霊。きっと私達は吹雪さんを助けてと呼び寄せられた。兄想いの優しさに私の中でより幽霊へ対する想いが募ったけど何より大切に想って貰える吹雪さんが羨ましかった。これは嫉妬というものかもしれない。足が止まりスカートの裾をきゅっと掴んだ。私は意外と嫉妬深いんだわ。吹雪さんじゃなくて、私にとり憑けばいいのに。

「ふ、ぶきさん…」

顔がカッと熱くなる。自分はなんて最低なことを考えているのだろう。兄弟愛に嫉妬だなんて私は馬鹿で悔しかった。不思議に思って一緒に立ち止まってくれていたヒロトさんを見上げ下唇を噛む。私の変化についていけない彼を見て決意した。

「私、告白します」
「へえ頑張って…告白!?吹雪くんにかい!?」

突然の言葉に慌てるヒロトさんに私は首を傾げた。どうしてそこに吹雪さんなんだろうと。…さっき吹雪さんと呟いた気はしたけど、呟いただけで彼にするとは言ってない。まず自然と出てきただけのことだった。まあいっかとその問題は保留しておくことにする。

「頑張りますねヒロトさん」

ガッツポーズを決めながら絶対に言うと決めた私にヒロトさんはただ苦笑するばかりで(鬼道くんに知られたらどうしよう…)なんて考えてるとは知る由もなかった。

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