( 01 )


彼は亡き人だ。


私は物心つく前から幽霊という普通人が見えないものが見えていた。それのせいで昔虐めにあったりしていて、どうして私だけ見えるんだろうと自分を幾度となく恨んだ記憶はそう新しくない。そんな異質な私が彼と出会ったのは北海道に新たな仲間を探し求めていた時である。横が重力に逆らって上にツンツンと向いているピンク色をした髪に白いマフラーをした小さな男の子。吹雪士郎と名乗った少年に酷似していていつも側にいるそれは、まるで取り憑いているかのようだった。

「もしもし。幽霊さんですか」

たまに吹雪さんから離れる隙に人目を盗んでこっそりと話掛けても返事はなくただ知らんぷり。その時にとる行動と言えば空を仰ぐ事ぐらいで、今にも何かに話し掛けるような雰囲気だった。並ぶようにして隣に座ってみればチラ見されてからまた空を見るといった感じで相変わらず会話のない状態が続く。それでもこの時の空気が嫌いという訳でなく、寧ろ落ち着いて好きな方なのだ。風が吹くと私の髪や服は靡くけれど隣の幽霊はやっぱり幽霊でマフラーは愚か髪の毛一本すら動かず改めて私達とは違うものなのだと半ば強制的に知らしめられた。

「ここは風がよく吹いて気持ちいいね」

ザアッと吹き荒れる風の音を割って少々大人びたテノールが耳に届いた。届いた頃には幽霊は既にその声の主の隣にいて彼を呼びつけたのだと確信する。先程まで幽霊がいたところ、つまり私の隣に彼は――吹雪さんは座った。

「僕も風みたいにどこまでも吹いていけたらいいのに」

誰かに言い聞かせるわけでもなく独り言のように空を見上げるその姿はやはり幽霊と似ている。ちょこんと吹雪さんの脚の間に座っている幽霊に口パクで「兄弟?」と尋ねてみると初めて見せる笑顔と声で自慢げに「おう!」と返ってきた。それを見た途端、どうしてか抱き締めてあげたくなって気付いたら、吹雪さんを抱き締めていた。

「春奈さん?」

嫌がってるのではなく本当に驚いてる声音を余所に私は触れられない幽霊の代わりに吹雪さんを抱き締めている。多分これは最低な行為だと思うけど抱き締める強さは増していくばかり。幽霊は私に対して暴れてるけどどう足掻いても触れることなく身体を突き抜けていく。今の私はとっても悲しい。

「せめて君が幽霊じゃなかったらなあ」
「え?幽霊?」
「はい幽霊です」

吹雪さんの弟さんのと付け加えようとしたら下の方で口に指を立てながら「しーっ」なんて可愛らしいことをしていたから言いかけていた言葉を飲み込んだ。

「大丈夫よ。内緒にしておくから」

同じように口に指を立てると吹雪さんが訳が解らないというように首を捻った。言い伝えると小さい手が腕に触れ、体温なんてあるはずがないのにそこに温もりを感じたのだ。同時にとてつもない切なさと愛しさが込み上げてきた私は吹雪さんから離れ、気持ちを言葉に出すのではなく空気に触れるように小さな唇にキスを送る。それは風の味でした。



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