フェイカーの所で調べものがあると言われたのが昨日。クリスは研究で毎日様子見をしなければいけないものがあるらしくパス、トーマスはプロリーグで上海まで出掛けてるのでパス。残るはミハエルしかいなかった。
「はぐれないで下さいよ父様」
「まさか息子にそんな心配をされるなんてねぇ…。大丈夫だよ、ミハエルなら絶対私から目を離さない」
「どんな自信ですか」
 人混みの多い駅で絶対というのは至難な事なのにばっさりと断言した父に苦笑したのもつかの間。迎えが来たことを知らせる着信を受信しそれを伝えようと隣を見下ろせば、既にその姿はなく。急いで周囲を見渡した。
「とうさ…っ、トロン!?」
 名前を呼んでみても人混みに掻き消されたので願っても届いてはくれないだろう。背も兄達とは違って小さいから上から捜すことも出来ないし焦りは募る一方だ。もし彼の身なりが上物だと分かる連中に誘拐でもされたら…、そんなマイナスなことばかりが頭に浮かぶ。こんなことならPDAでも持たせておけばよかった。後悔がどんどん押し寄せてくるが頭を振ってその考えを消す。こうなったらアナウンスして貰うしかない。

 そう思って踏み出そうとしたら不意に服の裾を引かれたような気がした。
「…っハルト!」
 そこには見知った少年が立っていて、握った手の先には父がしっかりと繋がれていた。良かったと安堵の息を吐き、屈んで目線を合わせる。
「ありがとう…父様を見つけてくれて」
「どういたしまして。でも電話にも出てくれないから心配したんだよ?」
 腰に空いてる方の手を当てて怒られるとミハエルは頭を撫でながら謝罪を送った。そういえば父探しに夢中で出ることを怠っていたのだった。
「ごめん、気を付ける」
「はあ…仕方ないなぁ、もう。そもそもの原因がバイロンさんなんだから、バイロンさんもミハエルに謝って」
「うん、ごめんねミハエル。気になるものがあったから行っちゃった」
「行っちゃったって、父様…」
 反省の色が見えなく、茶目っ気たっぷりに謝ったバイロンは呆れるミハエルに構わずきょろきょろと興味津々に観光している。ハルトが居てくれなかったら今頃また消えていただろう。一見は同い年でも中身はバイロンの方が一回り上どころかハルトの父と同世代なのだからもうちょっと大人らしくしてて欲しい。



 カイトと合流する間際、ミハエルはバイロンの横頭部に飾られた物を見て首をかしげた。
「父様の頭に着けてるのって何ですか?」
 目の部分だけがくり貫かれ、赤くて物凄い形相の顔をお披露目してるそれはトロンとしての容姿には不釣り合いだ。日本の祭でもよく見かけるがそれよりも幾分も恐ろしく作り上げられている。
「ああこれ? 鬼のお面だって」
「鬼…? どうしてまたそんな物が売られて…」
 最後を言いかけたところでミハエルはにっこりと笑うハルトにこれは何かあるなと視線を移した。
「今日はね、節分っていう日なんだ」
「それとこのお面が関係するの?」
「豆まきする時に使うんだよ。お面を被ってる人に福は内、鬼は外って豆を当てて追い出すの。今年も一年安泰になりますようにって」
 なんとも言い難い行事が存在することに苦虫を潰したような表情でいるとバイロンは突然急いでお面を外した。
「私は鬼役なんてなりたくないよ!」
 その慌てっぷりと訴えに二人はぷっと噴き出し腹を抱えて笑い合う。
「じゃあ兄さんにやって貰おうか」
「賛成!」
「頑張れカイト…」
 あっちに着いたらどんな惨事が待っているのか、ミハエルは安易に分かってしまったので肩を竦めて苦笑いした。

 話が纏まった直後、駆け寄ってきたカイトは各々が向ける視線に戸惑っていた。ハルトのなんでもないという言葉でそうかと頷くもどこか納得がいかない。背筋に上りくる悪寒の正体も掴めず、ただ家へと歩くしかなかった。



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