!十代は二十代、他三人は18です。
!メインのヨ覇欄にある「まだ内緒」と連動していますが幼馴染み設定は今回抜いてあります(ど忘れ)
「「セツブン?」」
「そ! 節分!」
祖国を離れ日本にやって来てからまだ一年足りとも経っていないアンデルセン兄弟は初めての行事に揃って顔を見合わせた。正月やこどもの日なんかはテレビや雑誌でも特集していたし、この国に引っ越すと聞いた時も事前にもっと詳しく調べておこうとしてたから色んな事を知っていた。けれど節分という行事があるのは初めて聞いた。今年はたまたま休日と重なったがいつもは特別休暇にもならない。そんな日を楽しげに語る十代に二人は首を傾げた。
「それってどんな事するの?」
「豆撒いたり、恵方巻き食べたりするんだよ」
「それだけ?」
なんだ、つまんない、と一気に興味を無くしたシトに焦りだした十代は隣で静かに座る覇王に助けを求める。先日の成人式で晴れて大人になったのに取り分けこうして弟を頼る癖は抜けないようだ。三人の視線が自分に向かれたのを感じたのか溜め息を吐いて説明をしだす。
「節分とは立春、立夏、立秋、立冬の前日を指す日のことだ。だが今の日本では立冬である2月4日の前日である2月3日だけを節分の日として名付けている。厄除けとして鰯の頭を干したり先ほど十代が言った通り、大豆を撒いたりするのだが…撒く時にはある言葉を復唱し続けなければならない」
「ある言葉って?」
「鬼は外、福は内だな!」
すかさず答えた十代にそうだと頷く覇王。さっきまでとは打って変わり、興味を出してきた双子は同じような面持ちでわくわくと続く言葉を期待していた。
「正しくは福は内、鬼は外だがな。まあどちらでも良いか…。後は豆を歳の数だけ食べればいい」
「あ、じゃー恵方巻きっていうのは?」
「それについては毎年決められる方角を向きながら特別に作られた太巻きを一言も発さず黙々と食べるだけだ」
「へぇ、やっぱり覇王って物知りだよな!」
「そこのお兄さんと違ってね」
「なんだよ、オレが言ったこと間違えてないじゃん!」
シトのからかうような視線に拗ねる態度をとる十代をヨハンはけらけらと笑った。覇王も満更ではないらしく唇が緩やかなカーブを描いている。
だが口先を尖らせていた十代は唐突に立ち上がり「あっ」と間抜けな声を出しシトを見下す。そしてにぃ、と厭らしい笑みを浮かべシトの腕を掴んで並べ立たせた。
「な、なに?」
あまりにも突飛すぎてついていけないのはいつものことだが、どうにも落ち着かない。十代はただ笑うだけでシトの質問には答えずに覇王に目配せをした。覇王から深い溜め息が出るのは何かを悟った時が一番多い。
「…行ってこい」
「ガッチャ! お先に美味しい豆を食べてくるぜ」
わけもわからず手を引かれ消えて行くシトに同情の目を向け、代わりにと残されたヨハンの肩をぽんと叩いた。された本人は怪訝そうに見つめたままだったが。
「十代の言う美味しい豆って? オレも食べてみたい!」
「止めておけ、奴の言う物はろくでもない」
二人が家を出た音がした後好奇心旺盛のヨハンは十代が座っていた席に腰を下ろし気になったことを問いた。するとヘドが出ると言わんばかりの覇王の気迫に圧され素早く口を詰むぐ。おろおろとしているとまた覇王から溜め息出てきたのに気づき寄った眉間の皺を両親指でぐにぐにと広げてやる。すぐに払いのけられたが続いて頬を引っ張った。
「溜め息を吐いたら幸せが逃げるってジムが言ってたぜ。だから笑えよ!」
強制としか取れない言葉に逆らおうとしてもこの状況では変なことしか言えない為黙りとする覇王に「手強いなぁ」と苦笑する。どうしたものか悩み、上下左右頬を自在に動かしていたら突然鳩尾に痛みが走った。なんかこれデシャヴと腹を押さえ思わずえづく。
「おえっ、中身出そ、…うぷ…」
「吐くなら外に行け。……ん? そうだ…」
下に俯いているヨハンは今の覇王の表情は見えない。だが見えなくて良かっただろう。彼は現在、極悪に笑っている。
「これを着けろ」
「へ…?」
渡されたお面を素直に頭に引っ掛けて屈んだまま覇王を見上げれば拳を作ってるのが確認できた。そのもう片手は落花生の入った袋を携えてる。
「覇王さん…?」
「大豆だと片付けが面倒だからな。代役だ」
ひくり、顔の筋肉が引きつるのをヨハン自身感じていた。そういやお面に二本の角が生えてたような…。そこではっとするも既に手遅れ。もしや身の毛も弥立つ出来事が今まさに起きようとしているのか。慌てて逃げ腰になりリビングから脱出する。
「この間の仕返しを喰らえっ!」
と同時に当たりに来る大量の落花生が地味に痛すぎて涙目だ。
「うわああぁあ! まだ怒ってたのかよぉ!?」
「鬼は外!!」
「ごめんってはおー!」
この日遊城家には恐怖の悲鳴が響き渡り、アンデルセン家には甘い声がいつまでも反響していましたとさ。ご近所迷惑にもいいところである。
「まあ、諦める気はないけどな!」
「…煩い」
「二人のお陰でゆっくりヤれてよかったなー、シト」
「もうやだ腰痛い」