蜜柑は好きだ。特に冬の蜜柑は炬燵で食べると絶品で一生食べ続けてもいいとさえ思った。だが食べるまでには難関が一つばかりか二つもあったのだ。
「うげっ…」
 説明している内に今もその壁に当たっていたのが意図も容易く砕け散りゆく。そんな第一の壁は爪。皮に爪を立てる毎に黄ばんでいくのがみっともなく感じ、眉を寄せた。何より刺さる瞬間が嫌いだ。力みすぎて失敗すれば果実の方まで突き刺さってしまう。あれには気持ち悪い以外の言葉は出ない。それから第二の壁であり一番の問題点と謂えば、汁。何故あんな少量におぞましいぐらいの破壊力が含まれているのか。とても憎らしい。今回は目に入らなかったからいいものを、入ったら最後悶え苦しむのは絶対に嫌だ。想像しただけで痛くなってきた。

「なにやってるの」
 蜜柑に向かってぶつぶつ呟いてると思いきや急に百面相しだすバクラを見兼ねてか、後ろから抱き締めるようにして炬燵に一緒にあたっていたマリクは面白そうに聞いてくる。肩に顎を乗せられ髪が頬に擦れてくすぐったい。振り払うように首をゆるゆる左右に動かしバクラは手を加えてない蜜柑を差し出した。
「おい、剥け」
 一瞬呆けた表情をしてすぐに仕方ないと受け取った相手に満足してだらり寄りかかる。膝をいい感じに肘置きにして胸板に頭を乗せればやりにくいと抗議されたが自分は聞く耳を持たないとばかりに鼻を鳴らして位置を固定させた。もちろん、ため息なんてしてきたら脇腹をつねって強制的に黙らせる。お前は黙って剥いていればいいということだ。
「まったくもー…ほら、口開けて」
「ん」
 持っていた不格好な蜜柑をテーブル板に置いて口元に持ってこられた果肉を貪れば甘味が広がる。酸味も程好くてこれは当たりだった。くんと襟足を引っ張りもう一つと求め、次のを今度は指ごと口内へ導いた。指先に付着した白い部分を丁寧に舐め取ってからちらりと見やればやや困り顔で頭を撫でられる。
「美味い」
「それは良かったじゃないか」
「だから次。早くしろ」
「はいはい」
 従順にも文句一つ言わずに運んでくる指を払いのけ違うと体を捩り向かい合った。驚いて床に手を着けながら仰け反るマリクの首に腕を絡め、バクラは舌舐めずりをする。
「口で渡してくれんの期待してたんだけどなァ?」
 ヘタレ野郎が、そう悪態吐いてバクラ自ら唇に食い付いた。


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