膝の上で眠りこけるふわっふわの緑色の癖毛男。また何の研究をしているんだか解らないけれど丸二日は寝ていなかったのを注意して無理矢理寝かせたのだ。

 雲は流れ、風も吹いて木々が揺れ蠢くとは謂え景色を眺めるのもそろそろ飽きてきてしまい髪を撫でていた手を頬へと移す。目尻に浮かぶ隈は濃く、不健康な生活をしていることは目に見えていた。頬もいくらか痩せこけているし食事もどうせ甘い菓子かドローパン以外食べていないのだろう。
「せめて食事だけでもしてねって忠告しておいたのになぁ」
 寝ている人に叱りつけても意味はない。だから代わりにかさついた肌をぐにぐに指圧して怒りを物理的にぶつけた。吹雪から与えられる刺激がうざったらしいというように寝返りを打った藤原の体は吹雪へと向かい合い、腹部へ顔を埋めて身を守るようにぎゅうっと丸まってしまう。腕がちゃっかり背中に回ってしまっているのは抱き枕のように感じているのかもしれない。
「きついきつい、藤原力強いってば」
 これは仕返しだと受け取っていいぐらい背面と正面からの締め付けはきつく、ギブだと藤原の肩を叩いた。

 ゆっくりと開かれた目蓋は第一に吹雪の制服を捉え、次に目を合わせる。
「んぅ…?」
「おはよう。気分は如何かな?」
起きたことにより弛んだ力にほっとしながら吹雪は心から微笑み、目覚めを歓迎する。本当ならもっと休んでいてほしいところだが自分の身を呈してまでなんてそこまで優しい人間ではない。お詫びとしては難だが、背を屈めてこめかみにキスをした。
「…変な夢見た。くさやパンとかキムチパンばかり引いてそれが積み重なって、でも食べないから粗末にするなって襲い掛かってくる。それでオネストに助けを求める夢」
「わあ、羨ましい限りじゃないか。幸せな夢だね」
「そう思うのは吹雪だけだ…」
 なんだか抽象的に夢の中へ出演してしまったらしいが真実を知らない藤原はいつまでもくすくすと笑うのが気に入らなかったらしく体を起き上がらせてそっぽを向いてしまう。子供みたいな行動にまた笑ってしまいそうになるのを堪えて肩に手を添えて後ろから顔を出した。
「そんな拗ねないでよ。ボクは君を笑ったわけじゃないんだからさ」
 ちゅ、ちゅ、とわざとらしく音を立てながら所々に唇を当てても抵抗しないのはそこまで怒ってないということらしい。寧ろ耳が赤くなっていて、どうやら恥ずかしいだけのようだ。
 あまりの可愛さに繰り返しキスを送っていると不意に腕を引かれて藤原の胸に寄せられてしまう。ふじ、と名前を呼ぶ途中で強制的に閉じ込められた声が別の言葉にならない声を発し始めて頭がぐるぐると回る。生き物のように滑り込んでくる熱い舌だとか蕩ける意思の中で事態を把握するには屡々時間が懸かり、心の準備もしていなかったから離れた頃にはくたくただ。
「…吹雪が、ああいうことしてくるから」
 俯いて顔を合わせようとしない藤原の耳は先ほどとは比べ物にならないぐらい真っ赤で、きっと頬や首までもが同じ色に染まってるのだと思うと此方まで釣られてしまう。

(ああもう!)
 人目なんて気にせず愛してると叫んでしまいたい!


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