万丈目は強情だ。一度言ったら中々取り消さない頑固者だし、良いとこ育ちのお坊っちゃんだから凄く我が儘。だけど素直になれないだけの仲間想いの熱い奴だって事も知ってる。表情もくるくる変わるから面白い。タッグデュエルのパートナーになってからは新しい一面も見れたし、一緒に居て飽きない相棒だった。
 でもたまに苛つくことだってある。最近で言えばそう、あれはデッキを確認してた日の事―――。



 レッド寮の一室で小波と万丈目は明日のタッグデュエルに控え、デッキ調整をしていた。何せ相手は十代と三沢と来たもので、今日は念入りにチェックを入れなければならない。実質DA一番の腕っぷしの奴とイエロー首席の奴が纏めて掛かってきたら絶対ピンチになる。そこをどう逆転するかが決め手なのでどのカードを入れようか真剣に話し合った。万丈目のデッキはおじゃまを使う特殊というべきか、普通ならあんまり使わないようなカードを軸としてるので一枚一枚の組み合わせが大変だ。どれにしようかと頭を捻っているとアドバイスをくれていた万丈目が突然「煩いぞ!」と怒鳴りだしたので、小波はまたかと苦笑する。
 彼は十代と同じく、デュエルモンスターズの精霊が見えるらしい。始めこそ隠してはいたものの自身の兄弟とデュエルしてからは吹っ切れたのか、何もない宙に向かって一人話す動作が目立ってきた。別段小波はそういう常人の目には見えないものの存在を否定はしないからそれはいい。だが、万丈目が精霊と話してる間は放置されてるので暇で仕方がなかった。
「まんじょーめ?」
 未だ止まない会話を強制的に終わらせる形で小波はその細い腰に腕を回して肩に顎を乗せる。それまではガミガミと煩かった万丈目も急に汐らしくなり、背中から与えられる小波の体温に落ち着きを払って小さく咳払いをした。頬に朱が灯ってるのは一方的なやり取りからでも判る大人げない態度を反省して点したものだろうか。取り敢えずそれは置いといて。
「おじゃまにばかり気を取られてないで、明日の為に備えようよ」
「…すまん」
 今回は珍しくあいつらがとか言い出さずにそれどころか自分の否を認めた万丈目をまるで珍獣を見るような目で見てしまったけど、室内でも帽子を深く被ってて良かったと気づかれないよう胸を撫で下ろした。それと同時に万丈目の視線の先にきっと居るだろうおじゃま三兄弟に向けて、ふんと鼻を鳴らす。お前達ばかり狡いと嫉妬の意を込めて目元を鋭くした。

「こ、小波」
「やだ」
 万丈目が次に言うことなんて分かってる。だから小波は言われてしまう前に拒否をする。呆れたように溜め息を溢されても今まで散々放置されていたのだからこれぐらい構わないだろうと、抱き着く力を強めた。びくりと微かに揺れた身体に少々気を良くし、首筋に顔を埋める。汗に混じって彼の匂いが鼻を掠めた。
 万丈目の頭の中は今頃小波の事でいっぱいだろう。そう考えると優越感がむくむくと沸きだし、にやけが止まらない。デュエル中は相手に集中しなければ無礼であるため仕方ないけれど、他の時は全部パートナーである自分へ意識を向けて欲しい。本当に大人げないのは他でもない小波自身だった事はとっくの遠に自覚していたつもりだが、我ながら餓鬼っぽいなと改めて認識せざるを得なかった。
「…犬みたいだな」
「……サンダーだけの犬だわん」
 あほか、と一蹴されてしまったけれどもその声音は満更でもなさそうだったから小波はくすくすと喉を鳴らした。



 でもどんなに黒い感情が浮き出ようが最後には赦してしまうので結局小波は万丈目に甘い。狡い奴だと思ったけど、一番狡いのはやっぱりその居心地の良さに身を沈めたままの小波自身であったので「オレだけを見て」なんて我が儘は口にできるわけもなかった。





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万丈目狂のフォロワさんに捧げる


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