遊星は視界に入るものを見逃さなかった。申し訳ないと思いながらブルーノに買ってきた機材を預けつつも見失わないように視線だけはそれから外さない。追い掛けて、追い掛けて。やっと掴んだのは身を焦がすような紅だった。

 十代は突然掛かった重みに驚く。厄介な精霊退治をなんとか一段落つかせ、気を抜いて昔とは全く違う街の景色を眺めていたら次に映るはどんな人の目でも惹くような特徴的な群青。



「ゆ、せ…」
 勢いのついたまま抱き着き、抱き着かれ。二人は仲良く地面に倒れた。いてて、と十代は肘をついて起き上がろうとしても遊星が肩の辺りに頭を埋もらせてるため叶うことはない。
「おーい、怪我してないか?」
 呼び掛けても何の反応も示さないが見るところ大丈夫だろう。困ったように出てきたユベルに助けを請うが首を横に振るだけだ。
(諦めろってか…)
 昔なら早く離れろと力を使ってでも二人を離そうとしたろうに、今はしないのは彼女も比喩的な意味で大人になった。それはそれで安全だからいいのだが、上に乗っかってる青年は身長も十代より大きく体重もそれなりにある。精霊の助けを借りなければ体格的にも力の差は歴然で、なんとかしようにも引き離せず仕舞いなのが息苦しい。
「……かった、」
「は?」
 背中をとんとんと叩かれたからか、閉ざされたままだった重たい口を動かした遊星だが、生憎とその声は十代には届かない。そしてむくりと上がった顔を見て十代はびくっと身体を強張らせる。

「逢い、たかった…!」

 過去ほんの数時間の短い付き合いでも分かったそこまで豊富でないはずの表情をくしゃりと歪めて今にも泣き出しそうな彼の慰め方など知らなかった。
「貴方は過去の人だから、もう会うことはないと思っていた…! それがまたどうしてとかそんな御託こそどうでもいいんだ、十代さん!」
 沸き上がった感情のまま話す遊星の手は冷たい。幻でないことを確かめるように額や頬や、至る所に触れていき最後に名前を呼んだ遊星は一変して柔らかな微笑みを向ける。
「貴方と再会できるなんて、本当に夢のようです」

 頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。どくどく全身の血液が逆らう感覚なんて、どれくらいぶりだろうか。感動に浸っている遊星は気づいていないが十代は人間だった頃のように赤くなったり動揺したりと、暫く体験していなかったことを久しくしていた。不意打ちでギャップを見せてくるとは反則だ。

 ユベルがやれやれと云った感じで見ているのも、遊星の後を追って来たブルーノがそこで呆けているのにも、お互いに夢中の二人はその存在に気がつけないでいた。





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四百四病の外=恋患い


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