memoより移行
部下になったは良いものの、遊馬は頭を捻っていた。正体がバレないよう慎み以前と変わらない零に同じく変わらない態度で接そうと思ってもあと一歩のところで踏み止まってしまう。彼がバリアン星人であろうがアストラルで慣れているので普通に友人として見ていられるし、だから遊馬は己の抱く居心地の悪さが不可解でならない。
「どうしたんですか遊馬君?」
遊馬がこんな思いをしていると知らない零は今日とて御丁寧に声まで変えた立派な演技を振る舞っている。いんや、と首を振ると納得のいかない表情をしたが深く追及するのを止め、そうですか、と笑顔を作っていた。どうなってしまったのかなんて自分が一番聞きたいというのに。
授業中もいつもなら寝ている遊馬だがもやもやしたまま眠りにつける筈もなく、かと言って英語の羅列が載ったPDAを読むのも億劫なので、惚けて外を眺めていた。アストラルがそこに居たなら嫌みの一つぐらい言われるだろうが生憎彼は皇の鍵の中に引き込もってしまってる。こういう時に限って話し相手にならないとは云えども、最近色々なことが起きすぎて整理したい気持ちがあるのはよく分かったことなので文句も言えやしない。机に突っ伏して大きく溜め息を吐いた。
「本当にどうしたんですか」
やはりと言うべきか、終了のチャイムと共に零はやって来て心配そうに顔を覗かせてきた。もしかしたらこれも演技の一貫かもしれない。そう考えたらなんだか腹立だしくなってきてぶっきらぼうに、別に、と突き放す。
「朝から変ですよ。さっきも授業中寝てなかったようですし」
「オレが起きてたらいけないってのかよ」
「別にそういうわけじゃ…」
あまりの素っ気なさに怯んだ零だが話がつかないと冷静に判断したらしく誰にも聞こえないような声量で仕方ないと呟いて自分の席へと戻っていった。だが苛立つ遊馬にとってその行動は先ほどのやり取りはやはり演技だったと決定付けるには充分だった。皇の鍵を強く握り、奥歯をぎりりと噛みしめる。やはり彼とは距離が遠くなってしまったらしい。