!現パロ
!十代と覇王、ヨハンと使徒が兄弟で幼馴染み設定





「なーに聴いてんの?」

 数十分は耳で流れ続けていただろう音は男の声が降り掛かるのと同時に離れた。滑らかなリズムは未だ鳴り続けているというのに邪魔をされてしまったのか。覇王は声の主であるヨハンへと体勢を向き直し盗られたイヤホンを奪い返した。
「隣いい?」
「勝手にしろ」
「さんきゅ」
 覇王から許しを得たと解釈したヨハンは端正な顔に似合わず年寄り臭くどっこいしょと掛け声を上げ腰を落ち着かせた。音楽プレイヤーを器用にもくるくる操作する姿は意外だ。興味深げに肩を寄り添わせてくるヨハンの頬を鬱陶しげに押せば逆にもっと寄せてくる。ここで闘争心が沸いてくるとは訳が分からない。だがそれも慣れたことなので溜め息を吐くことで諦めた。クラシックと兄である十代の悪戯で入れられたアニメソング(面倒なので削除はしていない)しか入っていない機械の中はファイル別けされてるのも相まって寂しげである。その数少ない中からシャッフルで一つ選ぶとずっと流れてた曲は途端にぷつりと切れ、新たな音色を奏で始めた。隣の存在も忘れて音楽に聴きいる。

「なあ」

「覇王ってばー」

「はーおーうくーん!」
「鬱陶しいわ馬鹿者!!」

 思いがけず大きな声を出してしまったようで慌てて咳払いをする。しかしなんなのだ、この男は。しつこいったらありゃしない。イヤホンだから外界の音はすべて遮断されていると思ったのか必要以上に近い場所で普通よりも幾分も増した声量で構えとばかりに叫ぶ。こっちは静かに聴いていたいと考えているのになんて迷惑な。ヨハンの行動に頭を抱えるのはこれで何度目になるのだろう。幼馴染みでなければ殴り飛ばしていた。
「覇王?」
「…、…何だ」
「それさ、片方貸してよ。オレも覇王が聴いてる曲聴きたいんだ」
 胡座を掻いてそれと指差すヨハンとイヤホンを交互に見つめる。許可を得ようとしてる風を利かせて実質命令と大差ない台詞に浅く息を吐いて左耳からスピーカーを引き抜くと好きにしろとだけ渡した。
「どうせ貴様には詰まらん曲だろうがな」
 好き勝手な言動の仕返しに鼻で笑ってやればヨハンはきょとんと首を傾げた。左耳に付けると目を瞑って、いや、と呟く。
「いい曲だ。気に入ったよ」
 すると雰囲気が突然変異したみたいに急に大人びるものだから覇王は内心きょどってプレイヤー内をぐるりと回した。ヨハンと過ごしているとたまにざわざわとした妙な気分になる。こうして普段とのギャップを見せつけられた時は特に。
「無理に気取らなくていい。貴様は此方の方が好きそうだからな」
「ぶふっ、なんだこれ」
「十代がいつの間にか入れていたアニメソングだ」
「なるほど…」
 新しく二人に流れたのは先程の静かなものと比べるとかなり軽快な音楽だ。十代に悪戯されたと言っても、ヨハンは覇王がこれ自体を聴くのが面白いらしく肩を震わせて笑うのを我慢している。だけど口許は完全ににやついているので気付いた覇王はすかさず頭にチョップした。痛みに耐えようと悶絶する様子に一旦満足すると曲をまたクラシックに変える。どうもあの猫被ったような声は勘を擽るのだ。まだあのポップが頭から離れようとしない。いくら仕返しとは謂えど自分でも馬鹿したと思う。

 眉をひそめているとヨハンは今度は何もしていないというのに一人腕組みをして唸っていた。
「やっぱさー…オレ好きだぜ、こーゆうの。普段聴かないのにな? それって覇王が好きだからじゃないかと考えてみたんだけど、どう」
 どうと言われても。どんな反応をすればいいのか分からず手の内にある音楽プレイヤーをじっと眺めていたら、ばっと奪い取られた。顔を上げるとさっきまで隣に居た筈の人物が至近距離にいるものだから思わず後ろに仰け反ってしまう。それでもどんどん縮んでいく距離に目を頑なに閉じ、唇を強く結ぶ。吐息がかかっただけでびくりと震えてしまうとは情けなさすぎるのでは。頬に手を携えられたときうっすらと視界を拡げてみると、見えたのは初めて見せるヨハンの艶っぽい表情。胸は高鳴って煩いというのに冷静ぶってこんな顔も出来たのかなどと余裕をこいてみせた。本当はそんな暇もないぐらいとても焦っている。
「覇王…」
 そうして重なり合った唇から熱が身体中にどんどん流れ込んできた。ただ掠るだけのものなのに全身が熱い。まるで何かの薬を一服盛られたような、自分の身体じゃなくなっていく、脳が痺れた感覚に抵抗することすら忘れて黙って受け入れていた。
「…そんな顔されたら勘違いしそうになる」
 その言葉の意味を理解しないうちに生ぬるい物が覇王の唇を這った。綴じていた双眸を見開いて驚いてるうちにもどうにか口内に入ろうと何往復もするのは舌と気付くのにそう時間はかからない。
「やめ…っんん…!」
 他人の唾液が塗りたくられる気持ち悪さに口を開いてしまったが最後、ぬるりと侵入してくるそれは押し返そうとする覇王の舌を上手く絡め奪っていく。噛むという方法もあったがさすがにそれには気が引けたのでヨハンの為すが儘だ。
 大体覇王はまだ気持ちに応えたわけでもないのにいい気になってここまでするとはどういう了見であるか。思えばだんだんと腹が立ってきてキスに夢中になってるヨハンの鳩尾目掛け膝で蹴りを入れた。要は、血が出なければいい。
「い、てー…っ!!」
「貴様の独り善がりは行きすぎだ」
 やっとこ離れたヨハンは覇王が想像してた以上に大ダメージらしく蹲っては必死に痛みに耐え抜いていた。されど自業自得なので心配はせず。地面に投げ出されていたプレイヤーをポケットに入れ、重たい腰を持ち上げてヨハンに背を向ける。

「絶対諦めないからな!」

 そんな事を身悶えてる者に言われてもかっこ悪いだけだと気づかないのだろうか。だけれどいつもの彼に戻った気がして安心して足を歩めた。改めてイヤホンを付け直し曲を聴き始めたが、よりこの曲達が好きになったかもしれない。


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