一目見た時からおとぎ話の王子様みたいだと女の子のようなことを思っていた。蒼い髪は眩しく煌めき、翡翠の瞳は当人をよく表したような優しさを孕んでいる。ヨハンの場合、その誰の目でも惹いてしまうような容姿は外国人だからという理由だけでは語りきれないような気がする。
そんな人に真剣な表情で手なんか握られたのなら、どうだろう。女の子だったら卒倒しそうだし、仮に同性でも見惚れて思わず息を吐いてしまうんじゃないか。だからその状況に現在進行形でなっている自分の心臓がどんどん速まって煩くなるのも仕方がないことなんだ。
「小波…」
男のわりには高いアルトの声が今は幾分か低くなって名前を囁いてくる。帽子越しに額と額をぶつけられると顔に熱が集まるのが嫌でも分かってしまう。ちくしょう、なんなんだよ。離れたくても震えた身体は動いてくれなかった。小波の目はヨハンから一寸も逸らすことができない。
「好きだ、小波。愛してる」
ストレートであることが当然のように羞恥心も無さげに伝えてくるが、純日本人で奥ゆかしさを持って生まれた小波は今にも死にそうな思いで居た。そんなことは知らないヨハンは握っていた左手を掲げ上げて、まるで騎士が君主に誓いを立てるかのように。ゆっくりと薬指に唇を這わせる。
「俺と付き合ってくれませんか?」
やんわりはにかんだ笑みで小波に問うてくるこの人は誰なのか。小波のよく知る普段のヨハンは見た目は確かに王子ではあっても中身は電波でジャイアニズムで、こんなにかっこよくなんて。決闘中とはまた違うもう一人のヨハンに戸惑いを覚えた。
「俺でいいのかよ…」
「お前じゃなきゃ嫌なんだ」
やっと出てきた言葉にでさえ即答して彼はこう言う。
(帽子、被っててよかった)
改めて深く被り直し、つばで余計赤くなった顔を隠した。
さあ、眠っていた想いよ早く起きろと急かしたてるこの気持ちをなんと名付けようか。