まっかな林檎をかじる

塀の上を歩く彼女にはらはらしながら話をしていた。手を横にしてバランスをとる姿は小刻みに震えていて更に不安を煽っているようにしか見えない。会話の内容なんておちおち聞いてられず右耳から左耳へと留まる事なく通り抜け、消えていった。

「隆一郎ってばマキのした悪戯にすぐ引っ掛かるから面白くてねぇ。それでそれでっ」
「わかった、わかったよ。わかったからそこから早く降りてくれないかな?見ていて危なっかしいよ!」

ついに見るに耐えなくなったから無理矢理話を終わらせて両腕を広げる。自分の話を切られた事に頬を軽く膨らませるが俺がした行為を怪訝そうにするマキに「ほら」と促すと理解したのか実に嫌そうな顔をされた。

「転んだりしないからおいでよ」

俺だって男なんだからもっと信用してくれても良いのにと思いつつ向かい合った。静止した為マキの身体はバランスをきちんととっているが安心とは言えないので心の不安はつっかえたままだ。

「マキー?」
「…嘘だったら治ちゃんに言っちゃうんだからね!」
「どこまで俺は信用されてないの…」
「だってリュウジひ弱そうなんだもん!」

その本音はグサッと突き刺さる。酷いなと言いかけた瞬間、自分とはまた違った明るみのある緑の髪がぶわっと宙に浮きながら一直線にこちらへと落ちてきた。

「うぶっ」

彼女の肩が顔面に強打して鼻を押さえるもギリギリで受け止めた俺は自身に拍手を送りたい。掛け声もなしに急に飛び込んで来るなんて危険行為じゃないか。今のは転んだとしてもマキのせいだよ。脇を持って抱き上げると彼女と目がぱちりと合った。顔なんて、もうあと10センチの距離しかなくて慌てて降ろす。何焦ってるんだと自分に言い聞かせても何故だか鼓動が速まって、胸をぎゅううと服の上から掴んだ。

(なんだこれなんだこれなんだこれ…!?)

俺だって思春期男子で異性にドキドキした事はあっても今の高鳴りはそれと全然比べ物にならない。混沌とした気持ちのままマキを見ると片手を頬に当てながら同じような格好をしていて困惑しているようだった。

「か、帰ろっか。園に」

誤魔化すみたいにトーンを上げて声を掛けるとハッと気付いたように顔を一瞬上げてからすぐに俯いてマキは頷いた。先ほどまでの威勢のいい彼女はもう居なく、あり得ないぐらい潮らしくなっていた。なんだか気まずくて、変だ。そのあとは一言も話せず黙り歩いて園まで帰ったけれどお互いの顔は赤いまま治まる事はなかった。



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題:無垢
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