屁理屈は今日も良好です

 日本ではここ数年二酸化炭素によるオゾン層破壊活動、地球温暖化というものに悩み続かされている。これからは氷河期になるという学者もいるのだがならばこの暑さはどう説明するのだ。
俺はこんな糞暑い中、外に出るよりクーラーの効いた部屋で涼しんでいたかった。それなのに子供は健康的に外で遊んできなさいだなんて正気かと疑った。今日の気温は三十度近く。脱水症状や熱射病という危険な事に成りかねないのになんという仕打ち。健康を優先するなら明らか後者だったはずなのに。ギラギラ照りつける憎き太陽は雲で覆われる事が嫌らしく、雲一つなく爽やかな青の中ぽつりと存在を示していた。

イライラ、する。

 容赦なく責め立てる暑さにやられたのか、それとも、なんだ。そういえば部活が試合続きで疲れてるのかいくら寝ても寝足りなくて寝不足だった。ああ眠い。
思い出せばぐわんぐわんと揺れる脳みそが真っ直ぐ歩くことを拒否し始める。どうせ公園には子供が沢山居るし、居るのだったらサッカーをしてる筈の河川敷で休んでた方がまだ楽しい。危なげな千鳥足で目的地まで足を進めた。



 着いてからまず始めに目を奪われたのは川だった。無邪気に遊ぶ子達が涼しそうにしていて羨ましい。着替えも何もないし一人で遊ぶのも気が引けるのでやりはしないが、そういう遊びもあったか。サッカーばかりしていると他の事には興味があまりなくなっていくせいで見落としていた。信助くんや天馬くんあたりなら誘えば来てくれそうだったから今度追い出されそうになったら道連れにしてやろうと胸の内に決めた。光の反射で輝く水は眩しくてたまに目を刺激する。うーん、これも夏の醍醐味だろうか。
 いっけぇー!そこだー!この炎天下の中で元気よく叫ばれた応援。視線はそちらへ移り、見えたのはサッカー。白熱するのを遠目に見守りよく見える場所へと腰を降ろした。ここいらでは有名なKFCが今日もまた練習だそうだ。午後からってのは可哀想だがあんなに元気に走り回れるなら問題はないだろう。俺の方は監督、先生どちらも不在の為休みで良かったよ。そのせいで暇になったけどさ。



「狩屋?」

 からから自転車のタイヤが廻る音が聞こえた。あと、俺の名前を呼ぶ聞き慣れた声。決して上手いとはいえないボール捌きにも夢中になって観察していた俺はぼけっとその方向を向く。

「…神童先輩?」
「やっぱり狩屋か。サッカー見てるのか?」
「ええまあ、家から追い出されちゃって暇だったし。先輩は自転車なんて持って遠出でもしてきたんですか」
「俺は買い出しだよ。荷物が多くなるから引いてきた」

意外だ。彼の家は金持ちだと風の噂で聞いていたからお手伝いさんみたいなのが居て全て揃っている感じがしたから。金持ちは案外みんなそういう所ばかりでなく普通なところもあったらしい。よく見ればカゴの中にはパンパンに膨らんだレジ袋。スーパーの名前を見るにここからも結構近い場所にある所だったがこんなに荷物があるのであれば歩きは困難だろう。食物も混ざっているようだし腐敗してしまう可能性も十二分にあった。
 突如自分にかかった影に驚く。さも当然だとでもいうようにナチュナルに座る神童先輩に俺は軽く混乱した。え、買い物はどうしたんだよ。クエスチョンマークを頭にいっぱい浮かべているのが今の俺の状況。掴みきれない行動に目を丸くする。

「いい物があるんだ」

そう、少し自慢げに言われた。首を傾げてたら神童先輩の手にはいつの間にやら何かが握られていたのが分かった。そしてあっと驚嘆する。

「保冷剤、…だ」
「暑いからサービスで配ってるんだ。勿論後で返さなければいけないが、気持ちいいだろ?」

首に当てられて鳥肌が立ったけど言われた通り気持ちが良くて小さく頷いてみせると、満足そうに笑った。その様子じゃ当分は家に帰れないんだろう、先輩は無理矢理保冷剤を俺に握らせて停めていた自転車へ歩んだ。慌てて立ち上がると血流が一気に血管へ流れ出してぶぶわっと広がり身体の重心が崩れそうになる。っと、と。全体を使ってなんとかバランスを保ち一部始終危なっかしそうな面持ちで眺めていた先輩の元へ駆けた。顔も良く女子に人気があり、神のタクトと呼ばれサッカー界では憧れの的になっている人物が自転車を跨いでいるというのはなんとなく可笑しくて向かい合うと笑ってしまいそうになる。
そうじゃなくて、

「これ俺に返してこいって事ですか。酷すぎじゃありません?」

先程返さなければいけないと言ったのはどの口だか。俺は使い走りにされるのはまっぴらだ。こっちは歩きで、そっちは自転車。どう考えたって先輩が自分で返してくるべきなのに。

「先輩がこんなに人使い荒いなんて、俺思わなかったなー」
「人聞き悪い事を言うな…。それを返すのは一週間以内ならいつでもいいんだ。だから明日の練習で俺に渡せばいい」
「…そういうことか」

先輩の言葉に附に落ちると遠慮なく保冷剤を首に当て満喫することにする。既に溶けてしまって水になっている部分もあったけどここだけが天国みたいで充分だった。
そうこうしているうちに先輩はじゃあなと去ってしまい、座り直した。短い間でもコンクリートは焼けてしまっていて跳び跳ねる程暑かったけど、首は痛すぎる程冷たくて。それが混ざり合い、体を温和してくれてるから丁度良いような気がした。錯覚だけども。

 どこかでは油蝉のジージーと鳴く声がする。連日猛暑の真夏日は動く気すら起きさせない。だけど明日は自ら動きたくなると思う筈。まさか理由を考えずとも話し掛けられるなんてチャンスじゃないか。口端が上がるのを止められず身に染みる喜びを小さなガッツポーズで現した。
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