B級エゴイスト

特に深く考えずに言ってみただけの一緒に帰ろう。既に帰ろうとしてた狩屋は気だるそうにいいっすよと語尾を短く伸ばしながら返事をくれた。

「鞄取りに行ってくる」

すぐに戻って来るから、と無駄に設備の整った部室に大股で向かう。中に入ってロッカーを開けると適当に放り込んでたせいか少し開いたチャックの隙間から筆箱が落ちていた。頭を掻いてからしゃがんで取るとほんわりとした声が入り口の方から聞こえ視線をそちらに移す。

「水鳥ちゃん?」

カメラを片手に来たのは茜で、なんだよと淡い笑みを浮かべた。あたしと隣同士の自分のロッカーを開けて着替え始める。音無先生とお話ししてたの。そう言う茜はどこか楽しそうで小首を傾げたけど本人が楽しかったならそれでいいかと、ちょっとした疑問に終止符を打つ。突然、携帯のバイブ音が鳴り響いた。驚きつつも画面を開けばメールで送り主は狩屋だ。まだですか、と絵文字もなしに短文だけなところがあいつらしい。気付けばもう五分は裕に過ぎていた。急いで握ってた筆箱をしまって乱暴に鞄を持ち上げる。小走りで扉に向かった。

「水鳥ちゃん」

茜の声で急いでた足は止まった。眉を眉間に寄せ集めながら振り向くと不適な笑い方をしているそいつを見て一瞬怯んだ。

「私の好きな人盗っちゃやだよ」
「…あたしは神童なんて」
「違うよ、シン様じゃない。狩屋くん」

まさかの相手に呆気に取られる。あんなにシン様シン様って盗撮するぐらい大好きな神童じゃなくて特に絡みもしない狩屋だなんて。二人の間で知らない何かがあったとしか考えられない。あたしには関係ない事だけど。

「あたしは恋とかそんな女らしい事解んないからさ。安心しろよ」

頷いた茜を見てからそれじゃ、と手を降って部室を出た。やっべえ。もう十分過ぎるじゃん。他の奴等よりも長いスカートを破れるんじゃないかってくらい足で広げて校門に向けて走った。グラウンドを越えて野球部を越えてやっとの思いで息を切らしながら着くと唇を尖らせぶすくれた狩屋が待っていた。当然だけど機嫌を損ねてるようであたしに気付いたら目付きの悪い瞳がもっとつり上がって冷や汗が垂れる。それでも先に帰らずちゃんと待ってるって意外に優しい奴なのかもしれない。

「遅い!」
「次の土曜日に部活終わったら肉まん奢るから許してよ」
「やだ。ピザまんがいいっす」
「わかったわかった。ピザまんな」

対して変わりないよなぁとか思いながら苦笑した。変なとこで意地張って子供みたいな事をする。いいや去年まで小学生だったんだしガキか。よっこらしょと幾分か年寄りくさく肩まで鞄を担ぐとそれを見据えてなのか目を逸らしながら右手を伸べてきた。何なのか解らなくて小首を傾げていると仏頂面でまたぐいっと右手を出してきた。物は試しにとそこに左手を重ねたら汗ばんでる事に気付いて笑みが溢れる。練習頑張ってたからこんなに寒くても汗だくになってるんだなって自己解決した。前に踏み出すと自分から差し伸べてきたくせにバチン!と音がするまで大きく振り払われて目が点だ。つーかいってえ。腫れた手を擦るといつも生意気なその顔が瞬時に情けないものに変わって噴き出してしまう。気にすんなとばかりに頭を撫でたら元に戻って子供扱いするなって怒られた。

「奢って貰うって決まったなら先輩が逃げないように鞄持ってってやろうと思ったんです。はぐらされそうになったらこの前鞄持ってやったでしょうってツケを狙うんスよ」
「なるほどな」

合点承知。なんか残念な気がしたけど楽になるし遠慮なく狩屋に鞄を投げつけた。よろけながらだったけど上手く取れたのでナイスキャッチと肩に腕を回す。二つの影の間に電柱の影が割り込んでまるであたし達が一緒にいる事を拒んでるようだった。
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