「どうしてそう軽率なんだお前は! 今のボク達はその行動一つで危うい目にあうかもしれないというのに、そんな事も考えられない馬鹿だったとは全くどうしようもないな!」
「はいっ、すみません!」
迎えにきたベネットが適当に作った嘘でなんとかあの場を乗り越えた光達は現在、観客席に紛れて龍可のデュエルの行く末を見守っている。そしてそのついでにしっかりとお説教も喰らっていたりした。周り中からの歓声によって幸い怒鳴り声は聞こえにくくなってはいるが何せベネットの叱り方は棘がある。若干心削られながらもそろりとデュエルを横見すれば、龍可は始め見た時と変わらず不利な状況だ。だが濁っていた瞳には今では光が宿りまだ勝ちを諦めていないように感じた。
「龍可さん…」
まだ分からない事ばかりではあるが彼女には勝って笑顔を見せて欲しい。そう願いながらデュエルの行く末を光は見守る。
「バイオレントエゴイズム!!」
「させない!! 罠カード発動! 《妖精の風》!! フィールド上に存在するこのカード以外の全ての魔法、罠カードを破壊する!」
「なに!!」
龍可が発動したと同時に《クリボン》を苦しめていた輪が外れ、《サンライト・ユニコーン》の装備カードも破壊された。そしてフィールドカードもなくなり、場には三体のモンスターのみ。
(よっしゃ!!)
ガッツポーズを握り締めながら隣をみればいつの間にかベネットもデュエル観戦に夢中になり口元を緩めていた。それでもまだ逆転となり得る一手には遠い。二人は気を引き締め真剣にデュエルの続きを待った。
「互いのプレイヤーはこのカードの効果によって、破壊したカード一枚につき、400ポイントのダメージを受ける」
「ぐぅ…!」
これにより相手のLPは3400から2200まで下がり、龍可のLPは1500から300まで下がる。その差、変わらず1900。
「装備魔法が消えた事により《クリボン》の攻撃力は300に戻る。バトル続行!」
「300に戻ったところでなんになる? 喰らい尽くす!! 精霊よ!!」
(精霊…?)
その一単語が光の中でどうしても引っかかったが、《超魔神イド》が《クリボン》を本当に喰らう勢いで襲いかかって行くのを我慢できず席を立ってしまった。彼女にとっての《クリボン》は大切な友達で良き理解者だ。もしあの胡散臭いカウンセラーが精霊に精通している者なら、幾ら此方の世界であっても危険が及ぶ可能性がある。しかし今の自分には何もできない。ただこうして彼女自身を信じる事、それだけしかできる事がなかった。
『光…』
心中を察してか心配そうに声を掛けてくれるベリアルには悪いが言葉を返せそうにない。悪いと心で謝りながらゆっくりと腰を落ち着かせる。
「《クリボン》のモンスター効果!! 攻撃対象となった《クリボン》を手札に戻す事で、そのモンスターの戦闘ダメージを0にし、その効果の対象となったモンスターの攻撃力分のライフをそのモンスターのプレイヤーは回復する。クリボンにも、この世界の誰にも手出しさせない!!」
「…っ」
彼女の言うこの世界とは、きっと精霊世界の事なのだろう。同じ精霊の見える者として光には判る。あんなに小さな身体の頃からあの大きな世界を守ってきたのかと思うと胸が苦しくなった。
そして、敵も同じあの世界に居る。悪しき者を倒すために彼女はフィールドに立っているのだ。敗者復活戦という場を借りて数多くある中での一つの世界を救う大役を買って出る勇姿は光の憧れた未来の彼女となんら変わりない。
「頑張れ龍可さん…!!」
今は遠くからしか応援出来ないけれど、貴女なら大丈夫だと信じているから。