彼は美しかった。否、出逢って十年以上経った今でも美しく在る。細く空気に溶け込むような薄い水色の髪は明かりに照らされることにより輝いて銀へと色を変える。ただ珈琲を啜っている姿さえ画になるようだった。

「…あの、さ」

 戸惑いがちに唇から割って出てくる声がベネットの耳を撫で、夢見心地の世界へと招く。弛く首を傾げてなんだ、とほくそ笑めば言いづらそうに長い睫毛を揺らして溜め息を吐かれた。だがそれもまた愛おしい。

「そんなに見られると飲み辛いから、違うところ見てくれ」

 伏し目がちにカップを置いて若干照れくさそうに告げる京介にベネットは軽く鼻で笑い飛ばす。

「断る。ボクが見ていたい」
「お前なぁ…親父から変なとこばかり受け継ぎやがって」

 ベネットの返事には呆れてるようで懐かしげに苦笑する彼を見るのはいつものことだ。親子なのだから似るのは仕方がないし、第一に京介と出逢えたのは父の昔からの親友であったからなのは分かる。
 しかし、面白くない。
 勿論キングである父の事は尊敬している。だが物心つく前から既にプロリーグで世界をあちこち股にかけあまり会わない為に酷ではあるが、子が親へというよりも他人から他人へ憧れてるようなそんな想いだ。
 だからかは知らないがむくむくと嫉妬心が沸き出て、気がつけば京介の肩に手を置いていた。驚いている茶の瞳を覗き込む。透き通っていて綺麗だ。

「京介」
「さん、だろ?」
「京介もボクだけを見ていればいい」

 彼の言葉を敢えてベネットは無視をして真剣に口を動かす。
 そう、幼い頃からずっと変わらない気持ちを抱いてきた。何度破裂しそうになった想いを抑え、伝えたのだろう。フラれたって諦めずにいたしこれからも諦める気はない。

「こんなおっさんなんか止めとけって。お前は両親に似て外面は良いんだから、選り取り見取なんだろ、どうせ」

 それでも胸は痛む。お前なんか見ちゃいないと遠回しに言われているようで(いや、実際言われているんだろうけど)苦しい。京介は父より年上だしそう理由付けるのもしょうがないと理解はしていた。どちらかと謂えば恋人というよりも甥と叔父のような捉え方が一般的だろう。自分でも意地が悪いと痛感している。

「なんだ、嫉妬したのか?」

 そんな常識に囚われた戯れ言は聞きたくない。だからわざとからかって半ば強制的に話題を明るくした。

「してねえ!」

 ベネットの思惑に気づかない京介は拗ねたように叫んだが、それで良かった。ずっと見てほしいとは云っても好きな人にダサいところだけは見られてたまるものか。
 好きだ、という言葉は呑み込んで。また今日もいつものように二人だけの穏やかな空間がやって来た。





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未来ではサティクファクションとネオドミノを往復してくれるバスとか地下鉄が開通されてると信じてる






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