▼マリバク
12/25(06:49)

 ケーキ片手に家へ上がり込まれたのはつい先程の事。真っ白なクリームへ蝋燭を突き刺す褐色の肌というコントラストがバクラの目を奪った。すぐに飽きはしたけれど、不覚にもいけない考えが過ってしまったのは悔しいような、なんというか。
「これでオーケー。さ、食べよう」
 中途半端な数だが十七本目で満足された蝋燭は火も点けられず、フォークが戸惑いなくケーキへ入る。中側は苺が窮屈そうにしていた。ふわふわのスポンジはへこまされようがすぐに元の大きさへ戻る。見るからに甘そうなこれは八号もあり、こんな日に男二人で貪るような代物でないのは火を見るよりも明らかだ。一人無言で食べ漁るマリクに引いた視線を向けるも、彼は物ともせずもくもくと口を動かし続けた。そういえばエジプト製の菓子類はこれよりもずっと甘かったか。まだ手もつけてない綺麗なフォークの切っ先を噛むと鉄の味だけが広がったが、此方の方が馴染み深い味なのが複雑なところだ。
「キミも手伝えよ」
 痺れを切らしたのか一本抜かれた蝋燭で指される。
「一人じゃこの量は捌ききれない」
「テメェで買ったくせにか。オレ様に押し付けんじゃねえ」
「いいから、食べろよ」
 いつになく強気でぶっきらぼうな言い方に舌打ちで返せば目尻がつり上がり頬は膨れた。体型は立派であるのにこれでは子供の様だ。彼の齢は一体いくつだったか。見た目通り甘ったるい欠片が喉を通れば胸焼けがしてくる。残りはまだ半分以上あるのが地獄の始まりなような気がしてならない。
「おめでとう、バクラ」
 たかだかケーキを共にしたぐらいで機嫌を直したマリクが祝いの言葉を舌に乗せる。しがらみから逃れて初めて楽しめるようになったクリスマスを、ぞんざいに扱っているがいいのだろうか。自分の知るところではないのでツッコミはしないが寄生しているこの身体の主の過ごし方とは残念なぐらい差があるので、哀れみを込めて。
「おめでとう」
 花が咲き乱れたような錯覚が起きたがどこまでも可哀想な奴だ。


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