▼ベクこと
12/22(03:42)

「人が人を好きになるのは、考えてるよりずっと難しくないわよ」
 振り返った衝撃でスクールバッグが揺れると、伸びた二つのうち小さな方の影も真似をした。
 あどけない少女が大人めいた口振りで偉ぶるのはちぐはぐでどうにもしっくりとこない。
 夕陽が溶け込んだ瞳の先に何が見えるのか、それを知るにはまだまだ理解力が足りなかった。あのきらきらとした目は何を映すのだろう。少なくともきっと、自分の見る世界より鮮明な色を描くに違いなかった。褪せた世界に立つ者にとって眩い彼女の存在は悪影響だ。空も川も歩行者も、違和感なく景色として馴染んでいるのにあれだけが異様に浮き立っている。
 難しくないと豪語されたものの後にも先にも彼女を好くことは出来なさそうだ。
「くっだんねぇ」
 蹴った石ころが前を歩く足に当たって、そのまま一部だけでも他と同様背景と同化してくれないものかと願ったが、綺麗なものの前では引き立て役にしかならず。こんな不貞腐れた自分もまた、彼女を引き立たせる程度の存在にしかなれないのだと心はざわついたままだった。


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