冷たく固い感触が伝わる。身動きする度ザラザラと砂と擦れ、服が汚れているだろう。肌や髪にも砂埃がつく。視界が塞がれわからぬが暗い目蓋の裏で、みすぼらしく横たわる惨めな女の姿を想像して奮わせる。
瞳術の血継限界を有するうちはの忍にとって視界が無い状況は、人一倍のもの恐ろしい。風、戸のガタつき、僅かな物音すら敏感になる。此方へ近づいてくる足音に血の気は引かず湧いた。

「うちはナマエ、起きろ」

低い命令口調の声に従いゆっくり上体を起こす。チャクラを感知しなくとも音と気配で昨夜の男が目の前で立っているとわかる。カタリと何かを置いて、慎重な手付きで髪の乱れた後頭部に指を絡ませた。
するりと目を覆っていた布が取られる。日の光が少ない牢屋だが、小窓から差し込む陽がちょうど反射し顔に当たる。眩しい。

「何で外すのよ」
「飯を食うからだ」

ご丁寧に長手盆に一汁一菜の温かい膳が乗っていた。質素に思えてご飯の量も汁物の具も多く、彼女は喜びを隠せない笑みだった。激しい野戦の末、千手に投降し訳あって牢獄にいる。まともな食事をしたのは戦前なら丸一日以上は何も口にしていないだろう。
兄と比べたら情は薄い方でも、降伏した者を餓死させるほど非道な性格ではない。千手と張り合えるうちはには一定の敬意を払っている。
昨夜の一件があったといえ扉間は彼女のために食事を用意した。無駄に固く縛られた両手の拘束も外し、そっと目の前に盆を置く。何故か嫌そうな顔をした。

「…もしかして、これってわたしの」
「そうだが」

目の前に自身の食事が置かれて、ナマエはたいそう不満そうにため息を吐く。飯が食えると喜んでいたのではなかったのか。意味がわからん。

「箸を使って飯を食えと?千手扉間」
「箸を使わずどう食うつもりだ…」

意味がわからないなりにも、出会って短い時間だが彼女について少しずつ理解してきた。

「わたしは捕虜なのよ。しかも敵対しているうちは一族…もっと犬のように扱うべきじゃない?この膳、器からやり直してほしい」

この女、かなり癖の強い被虐性質の持ち主である。

「そもそもお腹を空かせたわたしの目の前で扉間が見せつけながら食べると思ってたのに…」
「貴様、オレを何だと思ってるんだ」
「女に粗相させて人の尊厳を失なわせようとさせる変態」

変態は貴様だ。
言い返したいが反論しても喜ぶだけ。漏らされる前に急いで足の拘束も解いてやろうとする。何故か縄の結び目が記憶よりキツくなっていた。おかしい。痕が残るほど縛った覚えはない。
「ああこれ、縄抜けの術の応用ね」
用途の根本を覆す応用術。わかっていたが、こいつの頭はおかしいと改めて認識させられる。

「放置プレイはあまり好きじゃない。朝からずっとはばかりに行きたいのを我慢してる…我慢するの好きだからいいけど」
「先に厠へ行くぞ」
「そこは首輪つけて散歩でしょ」
「ふざけるな。然るべき場所で済ませろ汚いぞ貴様!」

本来の意味からかけ離れた拘束を外してやったら、今日一番の笑顔に変わった。自由になった手足の解放感に喜んだのではなく。

「い、今のもう一回言って」
「今のとは…」
「汚いって罵倒、スゴく良かった」
「……」

顔と眼を赤らめて心底嬉しそうに振る舞う女に底知れぬ恐怖を覚える。

「その侮蔑する目…けっこう好きかも」

怖い。


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