違う。こんな予定ではなかった。

「忍最強のうちはと千手が組めば…国も我々と見合う他の忍一族を見つけられなくなる」

千手の長が無防備に腰を下ろした。武器も持たず、甲冑すら身に付けず、仲間と変わらぬ態度のまま気さくな笑顔で接してくる。戦場で見てきた雄々しさを残しながらも傷ついた我々を追い詰めぬよう優しい声色で話しかける。
疲弊した者達へ甘美な御託を並べて、理想を語る姿に吐き気がした。

「柱間殿がそのようなお考えだったとは知らず…」

宵闇に飲み込まれる群青色の装束を身に纏った男が小さな声で嘆いた。過去の自身と向き合い、恥じているのだろう。確執は血でしか消せぬと疑わず戦いに明け暮れていた時を。戦い続け喪ってきた肉親と同胞の無念は、平和によって晴れるのではないか。

「マダラもきっと同じ考えのはすだ。あいつは元来優しい男ぞ」
「マダラ様が…?」

困惑する同胞を置いて柱間は懐かしみ笑った。わたしの知らない頭領が気になって彼らの会話に耳を傾ける。
何の因縁か少年の頃、互いの素姓を明かさず夢を語り合ったことがあるらしい。初耳だ。髪と服以外は同じ考えをもっていたと、弟想いで信心深い奴だと楽しそうに友を紹介する。


「そんなってない…」

彼女は、まだ警戒しているのか。渡された食事に一切手をつけずすっかり冷えた汁椀から視線を上げて睨み付けた。牙を隠さない彼女に対して、柱間は怒りも焦りもせず悠々と話す。

「ないものか。オレは必ず実現させるぞ」

投降したといえ敵だった彼らの輪に入ってきた柱間が言えたセリフでないが、この状況で反論する彼女は怖いもの知らずだ。敵陣のど真ん中で何を仕出かすつもりか。
柱間の話に胸を打たれたうちはの忍が鎮めようと肩を押さえる。逆に食事を押し付けられた。
両手が空いた彼女は、頭を痛そうに抱えた。

「ない…あり得ない……何で」

今にも泣きそうな瞳は写輪眼に変わる。他のうちはの者と違って怪我も少なくチャクラも温存していたらしい。

驚く柱間を遠目で観察していた千手らが用心深く見守る。長を倒せる忍はいないと確信しているが、何人かは戦闘体勢に入っていた。相手は写輪眼、油断は出来ない。

「何で手足が自由なのよ!?」


うちはナマエ。
投降した千手の集落でご飯を食べています。一族と千手の長が同じ鍋を囲んで和やかに団欒しております。


「おかしいでしょ!何故わたしの手足が自由なのよ!縛りなさいよ!」

「な、なんぞ?」
「縄でも鎖でもいいです」
「どうした急に…」

鍋の中で湯気をたたせる熱さに汗をかいていた。火遁を扱う我々すら舌を火傷しそうな温度に心を踊らせていたら汁椀によそわれて木の匙と一緒に渡された。すっかり冷めた食事を同胞に押し返されそうになって断る。

忌々しき千手め。毒ぐらい盛っとけよ。神経の痺れと呼吸が乱れて苦しむ我々に『うちはの舌には合わなかったようだな』と見下ろし蹴っ飛ばすぐらいやってほしい。

ちくしょう予定が狂った。
千手がうちは一族に対しこんなに厚遇だと知らなかった。知ってたら投降しなかった。

「こんなの望んでない!」
「ちょい待たぬか…飯がまだ残って」
「ごちそうさまでした!」


これならマダラ様の方がましだ。一刻も早く戻らねばならない。

此処から逃げ出すなら、戦の直ぐ後で千手も消耗している今しかない。
一度も口をつけてないないがお礼を言うと、腑に落ちないながらも納得した様子でそのまま上げた腰を戻して千手柱間はうちはの忍達と団欒を続けている。
楽しそうに和気藹々しちゃって。顔と名前覚えたからな裏切り者共め。戻ったらマダラ様にチクってやる。

全力疾走で駆けるより、忍らしく隠密行動で此処から逃げることにした。もちろん策などない。
いくらチャクラを温存していても敵陣のど真ん中からうちはの集落まで追手を振り払って走って逃げ切る自信もない。
気配を消して、こそこそ離れる。きっと見つかったら虫みたいと罵られたい。
柱間は相変わらずうちはの忍と会話を続けていた。鍋の火加減を任されて火遁を披露し得意気の同胞を見て悲しくなる。同じ釜の飯食ってんじゃねーよ。千手に魂を売ったのか。


「彼らの魂は何処へ行ってしまったのやら…」

「貴様は何処に行くつもりだ」

明らかにわたしへ話しかけたであろう声の主へ振り返る。疲れた顔で呆れていた。きっと虫みたいと思われてる。

「やはりスパイが居たか…」
「千手、扉間」
「兄者の理想は結構だが付き合わされる身にもなってほしいものだ」

殺したら兄者がうるさい、と愚痴をこぼしながらわたしに近づく手には縄が握られてた。さっき鍋食ってガハハと笑ってた男と血を分けていると思えない鋭い目付き。背筋がぞくぞくする。

「悪いが拘束させてもらうぞ」
「拘束…!?」

わざと敵陣に入ってくるだけはある。女は紅い瞳を過信しているのだろう。怖じけず丸腰のまま向かってきた。

「抵抗するつもりなら致し方ないが、容赦なく迎え撃つ」
「容赦なく…!?」

その写輪眼を押えるため目を輝かせてとても嬉しそうな顔をしていた。

「めっ…目隠しして縄で縛って千手の忍共で陵辱するってお約束ね!?」
「は?」
「ひ、卑劣にも同胞の亡骸の前で犯され辱しめを……ふふっ、覚悟は出来てるわ千手扉間」

少し上擦った高い声は気持ちの高揚を押さえきれない様子。口の端がにんまり上がって頬も赤かった。幼子が菓子や贈り物を受け取った時のあどけなさに近い。しかし発言した内容はとても子供の無垢とは遥か遠い。

地べたに押さえ付けられ拘束されかけているのに、心の底から嬉しそうに笑っている。その笑顔が怖い。


この状況を楽しんでいるのか……いや、まさか。


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