オビトがテイクアウトしたい

 一枚の写真がはさまっていた。思い出というものは彼女にとって大切なものらしく、卒業アルバムだけでなく修学旅行の栞や小さなアルバムをつくっては保管していたらしい。オレなんて家に帰って真っ先に捨てたどころか旅の途中で紛失したかもしれない『修学旅行の栞』を彼女は持っていた。美術部員が描いた表紙絵に懐かしい日付。何年前だと思わず引き算してしまった。
 その栞に挟まれていた一枚の写真がひらりとおちた。旅館の一室。枕が近くなるように布団が敷かれていて、その中央にお菓子が並べられている。どうやら旅館で泊まったときは、彼女、名前やリン達はこの一枚の写真のように過ごしていたらしい。
 なんだろうこの神秘的な空間は。彼女達がこの空間で過ごしている間、オレやカカシが第三次枕投げ戦争で暴れていた。文字通り小中高と続く三度目の戦争であり夜中の三時頃まで起きていた。次の日の朝はそりゃあもう眠たかったが高校生という若さは旅館の朝食で疲れをぶっ飛ばした。あの枕をカカシに投げつけていた時、リンと名前が…隣に並んで寝ていた、のだ。照明を消して、ちょっと話したりして眠りに堕ちていったのだ。


「オビト、なにかポケットに隠した?」
「イヤ……」

 隠すに決まっているだろう。持ち帰るに決まっているだろう。教徒が信じる神の写し絵を隠し持ってて何が悪い。目の前に名前がいて、その名前の家に遊びに来ている状況で偶像崇拝になってしまうがそれでもこの写真を離さずにはいられない。
 天使達が写ってるんだぞ。男のオレが知ることのない秘密の花園で戯れる天使達、もといリンと名前のお泊まり写真がなんだ。オレの和風造りの家ならばこの写真を凝視して自室を眺めればこの神秘的な空間が目の前に広がるかもしれない。その夢の世界へ行きたい。

「懐かしいよねえ、修学旅行!大学はオビトが卒論やってなかったから旅行計画がダメになっちゃったし」
「悪かったな……」

 虎視眈々といくのはここまでた。卒論を急ぐとしよう…と思ったらテーマすら決まってなくて周りにたいそう迷惑をかけたのは苦い思い出だ。カカシの叱咤やリンの応援がなければ留年していただろう。旅行計画を練っていた名前と一時期関係が悪化したのはニガイどころか苦痛の思い出。少し記憶がよみがえるだけで胸に風穴があいた気がする。

「じゃあ旅行いくか?」
「でも、みんな社会人だし……」
「社会人だからこそだろ。日程さえ合えば予算もそこまで気にしなくていいんだ」
「…それもそうだね!」

 限られた予算に時間。大学時代に練っていた旅行計画はツアーバスを利用したりしていたものだったらしい。しかし社会人になって懐に余裕が出来てきたオレ達は、自分へのごほうびとして高級旅館で懐石料理なんて贅沢も出来る。学生のときのように長い休みをみんながとるのは難しいが二三日の国内旅行なら合わせられるだろう。
 下半身に素直になるなら混浴のある温泉や海に名前とリンに挟まれて行きたい。両手に花もって日々マダラにこきつかわれている疲労した身体を癒したい。

「久しぶりにリンとリゾート行きたいなあ」
「よし!じゃあ一応バカカシにも連絡してみるか」
「オビト…それ」
「どうした名前……あっ」

 ひらり。携帯を出そうとしたら一枚の写真がオレのポケットからおちてしまった。

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